愛してるよ、ユイ(仮)

「私、世界で一番、幸せ者かもしれない」
 
 
クラスで一番地味で、いつも背景みたいに息を潜めていた私。
 
そんな私に、高校で一番のイケメンであるハルトが声をかけたのは、奇跡だと思った。
 
 
「ユイ、ずっと好きだった。僕の初恋なんだ」

夕焼けの教室。
ハルトにそう言われて、真っ赤な顔で頷いたあの日。
 
 
付き合ってからの毎日は、
甘い砂糖菓子の中にいるみたいに、ふわふわしてた。
 

「ユイは、清楚なワンピースと黒髪のロングが一番似合うよ」


ハルトの希望で、腰まで伸ばした黒髪。
それをハルトは優しく撫でる。

「ハルトって、本当に私のことを見ててくれるんだね」

「当たり前だよ。……僕は一番『ユイ』を愛してるんだから」
 
 
でも。
 
 
その言葉の、本当の意味。
 
 
あの日。
ハルトくんの部屋で、クローゼットの奥に隠された古いアルバムを見つけるまでは。
 
 
――『卒業記念・市立第一中学校』
  
 
パラパラとページをめくると、あるページで指が止まった。
 
そこには、今の私と
「全く同じワンピース」で。
「全く同じロングの黒髪」の女の子が、笑っていた。
 
 
――佐藤 結衣(ユイ)
 
 
 
私の名前は、田中 結衣(ユイ)
 
「……見ちゃったんだね」

 
背後から、氷のように冷たい声。
 
  
「ハルト、この子……」
 
 
「……あの日、僕の目の前で死んじゃった、本物の結衣(ユイ)
 
 
ハルトはゆっくりと歩み寄り、私の髪を撫でた。
その指先は、まるで死人のように冷たい。
 
 
「最初は全然似てなかった。
 でも、僕の言う通りにメイクして、髪を伸ばして、この香水をつけて……。
 ほ ら、今はもう、どこから見てもあのときのユイだ」
 
 
「……っ、やめて!」
 
 
突き放そうとする私の腕を、彼は折れそうなほど強く掴んだ。
 
 
「昨日のデート、笑い方が少し違ったよね。
 彼女はもっと、控えめに笑うんだ。
 ……次は、間違えないで。ガッカリさせないでよ、ユイ」
 
 
ハルトの瞳。
そこに映っているのは、私じゃない。
 

 「愛してるよ、ユイ」



甘い、愛の言葉。
でもそれは私に向けられたものじゃなかった。