「お坊ちゃま、捜しましたよ。帰りましょう」
ちょっぴり怖い雰囲気のお兄さんは、男の子のお世話係なんだって。
実は悪い人たちに追われていたわけじゃなくて、家庭教師の授業や英会話、ピアノのレッスンとか、たくさんやることがあって疲れちゃったから、逃げだしただけみたい。
男の子は少し気恥ずかしそうにしながら、こっそり教えてくれたんだ。
「……あ! あの子の名前、聞いておけばよかったな」
男の子とバイバイをしてから、名前を聞いていないことに気づいた。
(だけど、きっと近所に住んでいるはずだし……またすぐに会えるよね)
わたしはその日から、稽古にまじめに取り組むようになった。
肩下まであった長い髪の毛も、動くときに邪魔だったから、ばっさり切った。
お父さんもお兄ちゃんも、わたしが熱心に稽古をするようになってすごく驚いていたけど、わたしの「強くなりたい」って気持ちを応援してくれたんだ。
――あの男の子と、また会えた時。
不安そうな顔で、飴色の瞳を揺らしていた男の子のことを、わたしが守ってあげたいから。
(絶対に強くなってみせる!)
そんな誓いを胸に、わたしは毎日、厳しい稽古に取り組んだの。



