「そういえば、自己紹介がまだじゃったな。ワシは碓氷達彦。碓氷グループの社長をしておる」
「碓氷グループって、大財閥のあの……?」
碓氷グループという名前は、わたしでも聞いたことがある。
確か、色々な事業を展開している大財閥だ。テレビでその名前を聞いたこともある。
ということは――今、わたしのとなりで眠っている男の子は、碓氷グループのご子息ってことだよね。
その時、車が赤信号で停まった揺れで、男の子の指先がわたしの手に触れた。
そのまま握りしめられて、心臓がドキリと小さく音を立てる。
男の子の顔をそっとのぞいてみれば、まだ目は閉じられたままだった。眉間にぎゅっとしわが寄っている。
何か苦しい夢でも見ているのかもしれない。
(もう怖いことはないから、だいじょうぶだよ)
触れている指先を優しく握り返せば、男の子の眉間のしわが、そっとほどかれた気がした。
――まさか、碓氷グループの御曹司である碓氷琉夏くんとの出会いが、わたしのこれからの運命を大きく変えることになるだなんて。
この時は、思ってもいなかったんだ。



