遠くから、ひらり、と淡い⾊の何かが舞ってきた。
澄華の頬をかすめるように通り過ぎる。
(……桜の花びら……?)
それと同時に、頬を撫でる、やわらかな感触。
――⾵。
これが、⾵。
地下では、決して感じることのなかったもの。
触れられる空気。
なんて美しいのだろう。
なんて愛おしいのだろう。
狂おしいほどに、⽣命を感じた。
『地上はな、空気も⾵も⽔も、全部ここと違うんだ。
匂いも温度も、全部が⽣きてる』
幼い頃、⽗がそう⾔っていたのを、澄華ははっきりと思い出した。
その意味が、今なら分かる。
(……ほんとだね)
喉が震え、それでも、澄華は⼝に出した。
「……すごく、綺麗だよ……お⽗さん……」
その⾔葉は、⾵に乗って空へと溶けていく。
どこかで――
きっと、⽗が微笑んだ。
澄華はそう、信じた。
そして、まだ始まったばかりの“地上”という現実を、確かに、この⽬で
⾒つめていた。



