時川はさらに説明を続ける。
「あくまで仮説....俺の想像の範疇を出ないけど、凛の話によると、
押し寄せてきた異喰の中の数⼗体が、⼀番近くにいて、なおかつ⼿⼀杯
だった前線部隊を⾷べずに、後⽅⽀援の俺達の⽅に迷わず向かって
いったらしいんだ。」
澄華の⼼臓が跳ねた。
最前線の隊員――⾷べやすい、⽬の前の“ご馳⾛”を無視して、
後⽅の⾃分たちに狙いを定めた?
「異喰に......知能がある、って...⾔いたいんですか?」
そう尋ねた澄華の声は、⾃分でも信じられないほどに震えていた。
「……」
時川はその⾔葉に俯くと、静かに息をついた。
その沈黙の重さに、陽⽃も澄華も絶句した。
⼆⼈の頭の中で、凛や時川の⾔葉が繰り返される。
異喰に――知能がある?
いや、そんな突⾶な考えが現実に存在するのか。
胸の奥で寒気がする。
「俺は、そう考えてる。」
時川はそう⾔って、包帯に隠れた左⽬で、⼆⼈をじっと⾒つめる。
静かな声が、部屋に響き渡った。
凛も机に両肘をつき、顔の⽬の前で指を組んだ。
――室内は戦場の異常さだけを切り取ったかのように、
静かに、だが確実に緊張で張り詰めていた。
「って、⽬を覚ました直後にこんな事⾔われても困るよな。
………今⽇はここまでにしようか。」
時川は苦笑してそう⾔うと、ゆっくりと⽴ち上がった。
「変な話ししちゃってごめんな。お大事に。」
⼩さく頭を下げ、リビングを出ていく。
数秒後、⽞関のドアが閉まる⾳が響き、それが完全に⽌むと、
リビングには重く静かな空気が流れ込んだ。
誰も⼀⾔も発しない。
⻑く、張り詰めた沈黙が続く。
まるで時間そのものが⽌まったかのように、部屋の中の空気が
凍りついた。
澄華と陽⽃は、互いの顔をちらりと⾒た。
⾔葉を交わす勇気も、気⼒も湧いてこない。
ただ、戦場での記憶と失われた仲間たちの影が、⼼の奥で静かに重く沈んでいた。



