そしてもう⼀度顔を上げると、低い声で⾔った。
「……降りてこい。話がある」
それだけ告げると、踵を返し、軋む⾳を⽴てながら階段を降りていく。
時川も何も⾔わず、その背中を追って部屋を出ていった。
残されたのは、澄華と陽⽃の⼆⼈だけだった。
しんと静まり返った部屋。
さっきまで漂っていた重苦しい空気が、少しだけ薄れた気がした。
陽⽃が澄華の⽅を⾒て、軽く顎を引く。
「……とりあえず、⼀階⾏くか」
そう⾔って⽴ち上がると、迷いのない動きで、澄華の前に
⼿を差し出した。
まるでそれが当たり前であるかのように。
澄華は、その⼿を⾒つめる。
ほんの⼀瞬、躊躇った。
掴んでしまえば、もう戻れない気がしたから。
弱さも、恐怖も、後悔も――全部抱えたまま、前に進むことになる。
けれど。
澄華は⼩さく息を吸い、吐いてから、その⼿を取った。
陽⽃の⼿は、少し冷たくて、でも確かだった。
ゆっくりと⽴ち上がる。
⾝体はまだ重く、あちこちが痛んだが――今度は、よろけなかった。
その様⼦を⾒て、陽⽃は何も⾔わず、そっと⼿を離した。



