「……全滅、って……簡単に⾔ってくれるよな」
陽⽃の声に、苦笑とも嗤いともつかない震えが混じる。
澄華はゆっくりと⽬を閉じた。
異喰の、あの巨⼤な影。
振り下ろされる拳。
潰れる⾳。
噛み砕かれる⾳。
――全部、鮮明に覚えている。
忘れられるはずがない。
忘れてしまったら、それこそ――
「……私」
澄華は、唇を噛んだ。
「……⽣きてる」
それが、どうしようもなく重かった。
⽣き延びた事実が。
守られた命が、まるで“代償”のように感じられて。
「……澄華」
陽⽃が、ためらいがちに名前を呼ぶ。
「……⽣き残ったのは……俺達が今⽣きてるのは……
絶対、悪いことじゃねぇ。」
でも、その⾔葉はどこか弱々しく、⾃分に⾔い聞かせているようでも
あった。
澄華は、ゆっくりと⾸を横に振った。
「……分かってる」
そう、分かっているんだ。
頭では、理解している。
それでも――
「……伊織くんは……」
⾔葉が、途切れる。
「……⻯也を、突き⾶ばして……」
陽⽃が、ぎゅっと拳を握る。
「……ああ、⾒てた。」
低い声。
「……あいつ、最後まで……最後まで、泣いてた」
澄華の胸が、ぎゅっと締めつけられた。
怖かったはずだ。
痛かったはずだ。
「……守ったんだよ」
ぽつりと、澄華が呟く。
「……最後まで、⾃分を……曲げなかった。」
その⾔葉が、部屋に落ちる。
しん、と静まり返った空間で、その事実だけが重く残った。
澄華は、ゆっくりと⽬を開けた。
「……私」
視線は床でも天井でもなく、⾃分の両⼿に向けられていた。
包帯が巻かれた⼿。
⾎と泥にまみれて、それでも動いた⼿。
「……⽣き残って……何を、すればいいんだろう」
陽⽃は、すぐには答えられなかった。
正解なんて、どこにもない。
⽣き残った者にだけ突きつけられる問い。
しばらくして、陽⽃は静かに⾔った。
「……覚えておいてやるしか、ねぇんじゃねぇかな……
あいつらが確かにここにいて、最後まで戦ったってこと」
澄華は、⽬を伏せたまま、静かに頷いた。
忘れない。
忘れられない。
胸に空いたこの⽳は、これから先――⽣き続ける限り、
自分にずっと付きまとってくるものなのだと。
それでも。
それでも、⽣きていくのだと。
澄華は、まだ⼩さく、震えたままの拳を、ぎゅっともう⼀度握りしめた。
「……随分⾟気臭ぇな。」
突然、低くぶっきらぼうな声が部屋に落ちた。



