澄華は、喉がひくりと鳴るのを感じた。
「……」
聞かなければならないことが、まだ残っている。
⼀番、怖いことが。
澄華は拳を握りしめ、震える呼吸を抑えながら、もう⼀度⼝を開いた。
「時川班⻑は……? 他の⼈達は……」
そう尋ねた澄華に、陽⽃ははっきりと⽬を合わせることが
できなかった。
喉の奥で何かが詰まったように息を詰め、苦しげに表情を歪める。
数秒――いや、もっと⻑く感じられる沈黙のあと、陽⽃はようやく
⼝を開いた。
だが、その声は最初から震えていた。
「……後⽅⽀援第五部隊……」
⼀度、⾔葉を切る。
何度も⾔い直そうとしては、飲み込み、また⼝を開く。
「……皆川怜奈。桜⽥美織。五⽊伊織……死亡」
名前を⼀つ呼ぶたびに、喉が引き攣るのがはっきり分かった。
声は次第に掠れ、最後の⽅は、ほとんど息のようだった。
「……4班、全滅。6班……⼀名殉職………だとさ。
時川さんは………分かんねぇ。 でも、多分無事なはずだ。」
それ以上、陽⽃は続けられなかった。
澄華は、何も⾔わなかった。
分かっていた。
怜奈が、⽬の前で喰われたのを。
伊織が、潰されるその瞬間を。
美織の命が尽きる、その時を。 ――⾒てしまったのだから。
数秒。
いや、もっと⻑い時間が流れたように感じた。
「……そっか」
澄華の⼝からこぼれたのは、驚くほど静かな声だった。
あまりにも静かで、そこに感情の起伏は感じられなかった。
陽⽃は顔を上げられなかった。
もし今澄華の表情を⾒てしまったら、⾃分が壊れてしまう気が
したから。
澄華の視線は、床に落ちたままのコップに向けられていた。
乾きかけた⽔が、歪んだ形のまま広がっている。 ――美織さん。 ――怜奈。 ――伊織くん。
それぞれの笑顔が、声が、頭の中で鮮明に蘇る。
『いつか……この温かい太陽の下で暮らすのが当たり前な⽇が
やってくる。きっと、そう遠くない未来よ』
地上で空を⾒つめ、まっすぐに笑っていた怜奈。
『……良かっ、た……っ……死ん……じゃう…かと……!』
涙をこぼしながら、⻯也に駆け寄った伊織。
『今から、私と誠司はあいつらをぶっ倒してくる。
だから――安⼼して待ってなよ』
明るくて、⼀本芯が通ったかっこいい⼈だった美織。
まだ、全員知り合って⼀⽇も経っていなかった。
これからもっと互いを知って、笑い合っていくものなのだと、
当然のように思っていた。
それが、こんなにも呆気なく終わるなんて。
……明⽇は我が⾝。
その⾔葉は、きっと間違っていない。
「……」
胸の奥が、すうっと冷えていく。
痛いわけでも、苦しいわけでもない。
ただ、ぽっかりと⽳が空いたような、奇妙な感覚だけが残っていた。
それは、もう⼆度と埋まらないものなのだと――
澄華は、何も⾔わずに理解していた。



