空を知らない君に贈る唄


まるで――

⽌まっていた時間が、ようやく動き出したかのように。

⾔いたいことは、⼭ほどあった。

聞きたいという衝動と、知ってしまうのが怖くて⽿を塞ぎたいという気持ちが、

胸の中でせめぎ合っている。

それでも――

逃げることは、もうしたくなかった。

澄華は唇を噛み、喉の奥から声を引きずり出すようにして、

震えながら⼝を開いた。

「……みんな、は……?」

その問いに、陽⽃の表情が⼀瞬だけ強張る。

まるで、殴られたかのように。

部屋の空気が、ずしりと重く沈んだ。

「……」

陽⽃は⼀度、⼩さく息を吸った。

「澄華が……⼀⼈で⾛ってってから、たぶん……⼀時間くらい?

体感だから、正確じゃねぇけど……。まぁそんくらい経った時....」

陽⽃は視線を落としたまま、ぽつぽつと⾔葉を紡いでいく。

「俺と⻯也は……運悪くまた異喰に襲われてさ。

⼆⼈で、なんとか……必死に相⼿してた」

喉が鳴る。

「……⻯也がヘボやって……喰われそうになったとき」

その⾔葉に、澄華の⼼臓がきゅっと縮む。

「急に――氷室班⻑が⾶んできた。」

陽⽃は、少しだけ⼝⾓を上げた。

だが、それは笑顔とは程遠い、無理やり作った苦笑だった。

「ほんと、⼀瞬だった。

異喰……あっという間に倒しちまって」

淡々とした語り⼝。

けれど、その奥にある衝撃と安堵が、滲み出ている。

「で……」

陽⽃の声が、わずかに震えた。

「びっくりして駆け寄ったら……」

そこで、⾔葉が途切れる。

「……ボロボロで⾎だらけの澄華と時川班⻑を担いでてさ」

その瞬間の光景が、ありありと蘇ったのだろう。

陽⽃の瞳は焦点を失い、どこか遠くを⾒ていた。

「……腰抜かしそうになったよ」

そう⾔って、かすかに笑った。

だが、その笑みはすぐに消え、唇がきつく噛み締められる。

「そのあと……俺らは氷室班⻑について⾏って……

なんとか、地上から撤退できた」

⾔い終えると同時に、陽⽃は⾔葉を切った。

俯いたまま、何も⾔わない。

少し⻑めの茶⾊い前髪が、その表情を完全に隠している。