空を知らない君に贈る唄


⽌⾎を終えると、澄華は⼀度だけ時川の顔を⾒下ろす。

閉じられた⽬。

浅く、それでも確かにある呼吸。

(……託された)

そう思った。

次の瞬間――澄華は踵を返した。

振り返らない。

異喰であふれ返る、あの場所へ。

錐⼑を握りしめ、磁極砲の残弾を頭の中で数えながら。

(ここからは……私が、やる)

怖くないわけじゃない。

震えが、完全に消えたわけでもない。

それでも――

⾜は、⽌まらなかった。

澄華は、再び戦場へと⾛り出した。

⽗の⾔葉を、胸の奥で確かに抱いたまま再び戦場へ戻った瞬間、

澄華ははっきりと悟った。

――増えている。

先ほどよりも⼆体、いや三体は多い。

ぬらり、とした⾁の塊が、複数の⽬を忙しなく動かしながら、

澄華の存在を認識していく。

逃げ場はない。

隠れる場所も、ない。

「……はは」

澄華は思わず引きつった笑みを浮かべた。

そして、ぱんっと⾃分の頬を叩く。

鈍い⾳と同時にじん、と広がる痛み。

(⼤丈夫)

(ここを⽌めきれなかったら――)

脳裏に浮かぶのは、意識を失ったままの時川。

そして、その奥にいるはずの、陽⽃と⻯也も。

(……きっと、助からない)

ここが、執念場だった。