空を知らない君に贈る唄


まるで――

忘れていた何かを、思い出そうとするかのように。

彼の唇がかすかに震えた。

時川が何か⾔おうとして――

唇を、わずかに動かした。

険しく、苦しげだったその表情が、ほんの⼀瞬だけ緩んだように

⾒えた。

……そう思った、次の瞬間だった。

「――っ」

声にもならない息を漏らして、時川の⾝体から、ふっと⼒が抜けた。

まるで、張り詰めていた⽷が、突然ぷつりと切れたかのように。

前のめりに崩れ落ちるその⾝体を澄華は反射的に駆け寄り、

受け⽌めた。

「時川班⻑!!」

だが、呼びかけに返事はない。

澄華の腕の中で、時川は完全に意識を失っていた。

ずしり、と来るはずの体重が――

驚くほど、軽い。

(……出⾎のせい?)

胸の奥が、ひやりと冷える。

額から流れ落ちた⾎は、既に隊服の襟元まで染み込んでいた。

⻑⾝で頼もしく⾒えた⾝体が、今は壊れそうなほどに⼒を失っている。