澄華はその場でただ座り込んでいた。
何も、できないまま。
――『澄華、格好悪くたっていい。無駄になってもいい。
ただ……誰かに誇れる、⾃分でいろ。』
不意に、頭の奥で声がした。
今の状況とはまるで噛み合わない、あまりにも優しく、あまりに
懐かしい声。
そんなことを考える余裕すら今の澄華にはなかったはずなのに、 ――誰だっけ。
必死に記憶を探る。
霞がかった思考の奥、押し込めていたはずの記憶が、
ゆっくりと浮かび上がってくる。
……ああ、そうだ。
無意識に喉の奥が震えた。
幼い頃、何度も何度も聞かされた⾔葉。
転んで泣いた時も、怖くて逃げ出したくなった時も、いつだって
その⾔葉をくれた⼈。
――――お⽗さんだ。
そう思い⾄った瞬間だった。
頭の中を覆っていた重く⽩い霞が、⾳もなく晴れていく。



