彼は、必死に⾶び回っている。
跳躍。
回避。
反撃。
その⼀つ⼀つに、焦りと無理が混じっていた。
額から流れ落ちる⾚が、⾎液なのか汗なのか、判別できなかった。
綺麗に結われていたアッシュグレーの髪はいつの間にかほどけ、
無造作に⾵に揺れている。
――⼿⼀杯。
誰が⾒ても、そうとしか思えなかった。
あんなに強かった美織が死んだ。
あんなに強い時川が押されている。
その事実を脳が認識した瞬間、澄華の中で、何かが折れた。
(……ああ)
胸の奥が、すうっと冷えていく。
(……もう、ダメだ)
声にならない⾔葉が、確信として落ちてくる。
勝てない。
誰も、助けられない。
ここは⼈が⽴ち向かっていい場所じゃない。
そう思ってしまった。
⼼のどこかで――諦めてしまった。
その⾃覚が、澄華の全⾝から⼒を奪っていく。
⾜の感覚が遠のき、視界が滲む。
太陽はまだ輝いているのに。
空はどこまでも⻘いのに。
この世界は、こんなにも美しいのに。
それなのに......ここでは⼈が、あまりにも簡単に壊れていく。



