数⼗メートル上、空中に。
異喰の⼿の中で、まるで遊ばれる⼩⿃のように、無⼒にぶら下がって
いた。
「……え? あ、あれ?」
怜奈は状況を理解できないまま、引きつった笑みを浮かべている。
陽⽃も、⻯也も、伊織も――全員、⾜を⽌めたまま、⾔葉を失った。
「な、なん……あれ? なっ、なんで……?」
怜奈は下を⾒下ろす。
澄華はその顔を⾒て、背筋が凍りつく。
⼝が開かず、声も出ない。
出かけた声は喉に引っかかり、出てこなかった。
異喰はにぃっと⼝⾓を上げる。
そして、ゆっくりと、確実に、⼝を開けた。
⼝の奥から、腐敗と⽣⾁の臭いを伴った、異常な低い唸りが響く。
それは、恐怖の始まりの合図だった。
⼤きく開けられた⼝に気づいた怜奈は、引きつった笑みを⼀瞬浮かべる
と、すぐにそれを崩した。
⽬が⾒開かれ、恐怖が全⾝を貫いている。
「あ.....い、いや……やだ……や、やめて……やだぁぁ!!!」
叫び声は⽿を裂き、嗚咽が混じる。
⼿⾜を必死に動かすが、圧倒的な腕⼒の異喰に捕らわれ、逃れることは
できなかった。
怜奈の⼩さな⾝体が異喰の⼤きな掌の中で振り回され、無⼒感が痛い
ほど伝わってくる。
「いや……やだ……やめて……やめ……」
汗と涙で濡れた髪が顔に貼りつき、泣き声は次第に嗚咽に変わり、
⾔葉はもはや断⽚しか残らない。
その瞬間――異喰は⼝を⼤きく開き、怜奈を押し込んだ。
「いやぁぁぁぁぁっ!!!!!死にたくない!死にたくない!!
離してぇぇぇ!!! やだやだやだやだぁぁぁぁぁああっ!!」
ぎらりと光る鋭い⻭が、⼝の奥で脅威的に蠢く。
その姿は、まるで死神の⼝が開いたかのようで、逃げる時間も、
抵抗する余地も、⼀切残されていない。



