空を知らない君に送る唄

̶̶⼈類滅亡の危機。

それが訪れたのは、今から数百年ほど前のことだ。

地上に突如として“それ”は現れた。

名前も意味も分からない、ただ⼈間を喰うためだけに歩く巨影たち。

通称̶̶異喰(いしょく)

都市は⼀夜で沈み、国家は⼆⽇で崩れた。

⼈は逃げ、泣き、祈り、叫んだが、どれも異喰の胃袋を満たすだけに

終わった。

わずかに⽣き残った者たちが、暗闇の底へ逃げこみ、 息を潜めて暮らし続けた。

――⼈類は太陽を捨て、地上を去ったのだ。

* * *

現在̶̶地下に住む少年少⼥は、 「空」の絵を⾒ても、本当に存在したのか分からない。

⻘い塗料の曲線。

光のように描かれた⻩⾊い円。

それを教員が「太陽」と呼んだとき、どの⼦供も⽬を輝かせて

画⽤紙の世界に⾒⼊った。

『太陽って、本当にあるの?』

『空の上にはわたあめが浮かんでるんだって〜!』

地上は物語の中にしかない。

空も、⾵も、海も、⿃も。

地上を知らないまま、地下で⽣まれ、地下で死ぬ。

それが“当たり前の⼈⽣”だった。

だが、地下にも恐怖はある。

⽔路の枯渇、電⼒不⾜、もう限界に近い資源。

̶̶地上に戻らなければ、いずれ⼈類は滅亡するだろう。

その絶望が、ある組織を産んだ。

地上進⾏部隊。

通称、上進隊。

地上へ上がる唯⼀の軍事組織であり、

同時に “最も死にやすい職業” として知られている。

新⼈隊員の⽣還率は三割以下。

任務によっては⼀割を切ることも珍しくない。

それでも̶̶上進隊を志願する者は絶えなかった。

理由は様々だ。

「太陽を⾒てみたい」

「地上を取り戻したい」

「英雄になりたい」

「両親に楽させてやりたい」

英雄。

無鉄砲。

死に場所を探す狂⼈。

家族を救うための⾦づる。

⼈々の評価はまちまちだが、⼀つだけ確かなことがある。

̶̶上進隊は、“地下で唯⼀、空へ届く職業”だということ。