「“向こうの”俺に───…よろしく」
引き寄せるように撫でられた髪。
抱きしめ返す気力も精神も、私には残っていなかった。
世界は壊れる。
私は向こうの世界を振り切ってここに来た。
結果、どちらも守れないまま終わってしまうのか。
「出撃は明日の昼だ。まだ時間はある。今日はずっと一緒にいよう。…一緒に居たいんだ」
「っ…、私…、なんのために…っ」
なんのために、ここにいるの。
目の前の特攻兵を救うことさえできないで、引き止めることさえできないで。
時空を超えるプレゼントを与えられておきながら、なにも活かすことができなかった。
そんなの花を手にして見送るしかできない1945年の人間たちと、なにも変わらない。
「こうしてまた君に会えた。…俺からしたら、こんなにも神様に感謝することはないよ」
3回も失敗したなら4回目ももしかしたらと期待してしまうことは本能だ。
空は快晴、飛行機雲は明日をも予報した夕暮れに消えていく。
雨が近づく匂いはなく、明日もいい天気だろうと考えなくとも分かってしまう黄昏の下。



