穏やかな顔をした彼がサイコロに触れた瞬間だった。
ぐらりと歪んだ視界と、今までとは少し違った不快にも思える秒針音が響き渡る。
カチィ、カチィ、カチィ。
ゆっくり、深く、もう動かない針を必死に動かすような。
「え……っ?」
すかさず私は彼の腕を掴んだというのに。
私を時空の亀裂に押し込むように突き放したのは、鳥海だった。
「とりうみ…っ」
伸ばした手は、同じようには伸ばされない。
時空の風に引っ張られていく私を落ち着いて見送るように、満足そうな眼差しで。
最初からそうすると、決めていたみたいに。
「つぎ…っ、ぜったい迎えにくるから…!!待っててっ、ここにいて……っ、やくそくっ、約束だよ…!!」
涙が粒となって落ちていく。
ふたりで食べたおにぎり、飴玉、スマートフォン、未来。
特攻兵の君は、そんなものに釣られてはくれなかった。
「………しお、」
けれど、唯一として誤魔化せなかったその震えだけは。
まだ18歳という年齢が暴いてしまったのだ。



