「おはよう志緒ちゃん」
「………杠さん」
こんなふうに声をかけられることは慣れたものだ。
下駄箱前、すこし憂鬱な気持ちを抱えながら振り返った。
「え、なに…?“杠さん”なんて、急にびっくりするよ…!」
「…あれ?私いつもそう呼んでなかったっけ…?」
「そんなの高1の頃以来だよ!乃愛(のあ)って名前で呼ばれるの、嬉しかったのにな〜」
「…ごめんごめん。乃愛」
「ふふっ。なんか面白かったからいいけど!」
ちがうの、聞いてよ乃愛。
私さ、変な夢見て。
そこではずっと乃愛のことを「杠さん」って言って、こんなふうに話してもいなかったんだよ。
むしろ夢のなかの私は乃愛のこと、ちょっと苦手だったかも。
「それで乃愛はさ、メガネかけてて。けっこう分厚いやつ」
「え〜、それぜったいモテないやつだよね?私は高校からコンタクトだよ?」
「…そう、だよね」
「志緒ちゃん…?」
なんか、引っかかる。
こんなに違和感だらけの感覚も懐かしいというか、でもその“違和感”が、私は嫌いじゃなかった。
そしてここにある“違和感”は、私が好きなものじゃない。



