あの人が持っているものはなに?
あの人が使っている機械はなに?
それはなに?どうしてそんな音が鳴るの?と、目に見えるすべてを俺は主治医である女性に聞いていた。
『じゃあ先生からハヤトくんに…大切なものを渡すね。これは君のものだから、君の宝物だよ』
そして渡された正六面体。
どの面を見ても真っ白で、退屈とも思えるサイコロのようなもの。
大きさも俺が知っているものではなく、これは未来のサイコロなんだと、そこでも喜んで受け取ってしまった10歳の俺。
『きっと必ず、君を救ってくれるものになる。───“向こうの”私に……よろしく』
切なそうに目尻を下げた医者の言葉を聞いて、そのときの俺は元の時代に戻ったのだ。
戻った場所で母に話すと、そもそも紙飛行機など作っていないと言われ、負っていたはずの怪我さえ治っていた。
しかし『おかしな夢を見たのね』とあしらわれた俺の手には、夢のなかで貰ったはずの正六面体。
表面には四、五、六という見慣れない漢数字が浮き上がっていた。
『はなおり……、しお…』
それだけは、忘れない。
あれから8年が経った今でも。
名札に書いてあったその名前。
花折 志緒────同じようで別人の彼女にまた出会えた、この夢のような現実を。



