「…やえ子ちゃん。すこし志緒を借りていいか」
「も、もちろんです…!」
「ありがとう。…行こう」
「もちろんです」と言ったヤエちゃんの返事も、よく考えるとちょっと変だ。
ぐいっと右腕を引かれて、あまり走りすぎないように私たちは三角兵舎から離れた。
「……どうやって、ここに来たんだ」
川のほとりで足を止めて、開口一番。
この男にしてはなんともざっくばらんすぎる質問だと思った。
「鳥海。私…、ぜんぶ知ってるから」
「………、」
「…ちがう世界の鳥海と、私は未来にいるよ」
「…やはりか。俺は、どこかで時間を歪ませてしまったんだな」
こぶしさえ、握らない。
悔しいと何かに八つ当たりもしない。
責めもしない、自分を叱りもせず、それが運命なんだろうと受け入れる。
向こうの彼が「弱さのなかに強さがある人」なのだとすれば。
ここにいる彼は、「強さのなかに弱さがある人」だと。



