アレカレ!

 夏の終わりが近づいている。
 今年の夏休みは、ほとんど七五三くんの家で過ごした。

 夏休み前より、少し頭が良くなったような気がする。
 なぜなら七五三くんが、学年トップだから。
 私がわかるまで、彼は根気強く勉強を教えてくれた。

 おまけに七五三くんは、いつもお昼ごはんを用意してくれる。
 しかも全部、お店みたいな料理ばっか。
 あれだけ食べて太らないってことは、きっと彼は栄養のバランスまで考えてくれてるんだろう。

 イケメン。勉強ができる。料理が上手い。やさしい。
 私の彼氏って、サイコー。

 でも……この夏休みの間中、私にはずっと謎だったことがある。
 それは、彼のおじいさまの幽霊屋敷の玄関に、ずっとぶら下がっていた物。

 つまり――トウモロコシだ。

 そのトウモロコシには、『実』つまり『粒』が一つもついてない。
 全部食べたあとなのか、指で粒を外したあとなのか。
 もう食べるところがないトウモロコシが、二、三十本も玄関先にぶら下がっているのだ。
 そのシーンは、めちゃくちゃ謎すぎるのである。

「ねぇ、七五三くん」

 夏休み終了の二日前、私はついに七五三くんにそれを聞いてみることにした。

「何?」

「私、この夏休みの間、ずっとあなたに聞いてみたかったことがあるんだけど?」

「あぁ、そういえば……明日で夏休みが終わるね」

「うん。でね、これ――何?」

 玄関先にぶら下がってるトウモロコシを指さし、私は聞いた。
 私の質問に、彼が「え?」と驚いた表情を浮かべる。

「し、知らないの? これはね、トウモロコシっていう――」

「ううん。そうじゃないの」

「……」

「私が聞きたいのは、どうしてもう食べるところがないトウモロコシが、こんなとこにぶら下がってるのかってこと」

「あぁ、うん。それはね、ドラキュラ除けだよ。彼らは、トウモロコシを嫌うんだ」

「ドラキュラが嫌いなのは、ニンニクだよね? 私、真面目に聞いてるんだよ?」

「まいったなぁ。まさかそこに気づかれるとは……」

「いや、気づくでしょ。ここ、玄関だし」

「でも、ま、いっか。ホントはキミをビックリさせようと思ってたんだけど」

「私を? ビックリ?」

「うん」

「こんなのが玄関先にぶら下がってる段階で、かなりビックリだよ。もしかして七五三くん、トウモロコシが大好きだったりする?」

「いや。トウモロコシは好きだけど、まぁ、大好きってほどじゃないかな。このトウモロコシはね、夏の終わりに必要な物なんだ」

「夏の終わりに? 必要?」

「明日、夏休み最後の日だよね? だったら、明日教えるよ」

「今じゃダメなの?」

「うん。今じゃダメ」

 そう言うと、七五三くんは、いつものように橋の近くまで私を送ってくれる。

「じゃあ、また明日」

 彼にそう手を振られ、私たちは別れた。
 家に向かってペダルを漕ぎながら、私はやっぱり首をひねる。

 玄関先にぶら下げられた、もう食べるとこがないトウモロコシ。
 夏の終わりに必要な物。

 それは何か――行事的なものなのかな?
 お盆に、ナスやキュウリが必要、みたいな?

 付き合いはじめてからもう三ヶ月くらい経つけど……七五三くんが一体何を考えているのか、私、いまだによくわかんない。

 やっぱり彼は、すごくヘン!
 もぉ、めちゃくちゃ、アレ!

       𖧧

 翌日の午前中――七五三くんの家にお邪魔した私は、お昼ごはんにソーメンをごちそうになった。
 結局、七五三くんちのソーメンは、夏の終わりまで無くならなかった。

 宿題の残りを終え、彼といっしょにゲームをする。
 七五三くんがゲーム機を持ってるとか、意外だったけど……まだ新しい感じだから、もしかして私のために買ってくれたのかな?
 で、ゲームをしながら、私は思った。

 今年は……本当に不思議な夏だったな……。

 初めての彼氏ができたっていうのに、私たちはフツーの恋人たちがするようなイベントを何もしてない。
 花火も、お祭りも、プールも、デートも。
 二人で宿題をしたり、ソーメンを食べたり、宇宙で水風呂に入ったり、そういうことばっかしてた。

 クラスの彼氏持ちの女子も、みんなこんな夏を過ごしたのだろうか?

 気がつくと、あっという間に、外はもう夕方になりはじめてる。
 七五三くんといっしょにいると、時間だけは早く経つ。
 私たちの初めての夏は、そろそろ終わりを迎えようとしていた。

「ねぇ、葉月さん。ひょっとして、そろそろ帰る?」

 ゲームが途切れたタイミングで、突然、七五三くんが言った。

「え? あぁ、帰った方がいい? 何か用事がある?」

「いや、そうじゃなくて。ボクはべつに泊まってくれてもいいんだけど、キミはそういうわけにもいかないだろ?」

「まぁ、そうだけど……」

「帰る前に、あの干したトウモロコシの謎を教えるよ」

「え? ホントに?」

「うん。準備するから、ちょっと待っててくれる?」

 そう言うと、七五三くんはリビングから出ていった。
 つ、ついに、あのぶら下がったトウモロコシの謎を教えてもらえるの?

 う、うわぁ!
 それは楽しみ!
 楽しみすぎるよ!
 私がワクワクと待っていると、彼はすぐに戻ってきた。

 でも――ふたたび登場した彼の姿を見て、私は、ちょっとドン引きする。

 彼は……たくさんのカラフルな布切れを縫い合わせたような、ポンチョっぽい衣装に着替えていた。
 エスニックって言うのかな……どこかの民族衣装?
 少なくとも、この日本ではあまり着ている人がいない感じの……。

「あ、あの……何、その服? どうしたの? って言うか、そんなの、どこに売ってるの?」

「うん。これはね、おじいちゃんが昔、ボク用に買ってきてくれたものなんだ」

「お、おじいさまが……」

 オカルト研究家だった、七五三くんのおじいちゃん。
 たしかに……そういったご職業の方が、お土産で買ってきそうな服だ……。

「その衣装が、あのトウモロコシと、何か関係があるの?」

「めちゃくちゃ関係があるよ。むしろ、この衣装じゃなきゃいけない」

「い、いけないんだ……」

「庭に出よう。儀式を行う」

「ぎ、儀式ぃ?」

 私が声を裏返すと、七五三くんがキリッとしたイケメン顔をこちらに向けた。

「ボクたちの初めての夏が終わる――その、祝祭(しゅくさい)だよ」

「しゅ、祝祭?」

 はい。
 私の彼氏・七五三くんは……本当に意味がわかりません……。

 この人って、一体何なのでしょう?
 儀式って、何ですか?
 祝祭って、何を祝うの?

 七五三くんが、一人でスタスタと玄関に向かっていく。
 そんな彼に、私はついていくしかありません……。

       𖧧

 幽霊屋敷の庭に出ると――いつの間にか、そこにはキャンプファイヤーの(たきぎ)が組まれていた。
 いわゆる、井桁(いげた)(がた)
 木を『井』の文字みたいに重ね合わせるスタイル。

 こんなの、いつの間に作ったの?
 今日私がここに来た時、こんな木、庭に組まれてたっけ?

「あの、七五三くん。儀式って……もしかしてキャンプファイヤー?」

「うん。やったことある?」

「昔、ちょっとだけ。家族でキャンプに行った時、パパが組んでくれた」

「だったら、話が早いな。ボクたちの儀式には、このキャンプファイヤーが不可欠なんだ」

「で、でも――」

 勇気を出して、私は七五三くんに言う。

「やっぱ、これ、良くないよ。いくら自分ちの庭だからって、私たち、中一だよ? 二人だけで、こんな風に火を扱うって、ゼッタイに危ないと思う」

 私の言葉に、ヘンな衣装を着た七五三くんが肩をすくめる。

「いやいや。大丈夫だよ。ボクたちが今からやるのは、世界で一番安全なキャンプファイヤーなんだ」

「世界で、一番安全?」

「そう。ボクは、マッチもライターも使わない。もちろん、火打石(ひうちいし)も虫眼鏡もね」

「じゃあ、どうやって火を点けるの?」

「これさ」

 衣装の中に手を入れ、七五三くんがゴソゴソと何かを取り出す。
 私の前に拳を突き出し、手を開くと――そこにはサラサラとした黄色い粉が握られていた。

「こ、これは?」

「キミがずっと謎に思っていた物だよ」

「私が、謎に?」

「これは、玄関にぶら下がっていた、あのトウモロコシさ」

「え? ト、トウモロコシ? これ、あれなの?」

「うん。今日キミが来る前に、粉末機で粉にしておいたんだ。夏の間中、ずっと干してたから、なかなかいい感じに仕上がった。触ってみる?」

 私は、七五三くんの手のひらにある、黄色い粉を触ってみる。
 たしかに、よく乾いている。
 匂ってみると、それはたしかにトウモロコシの匂いがした。

「でもこのトウモロコシの粉で、どうやって火を点けるの? 摩擦を利用する、みたいな?」

「まさか。そんなものを利用したら、この儀式が全部台無しになる。ボクとキミの儀式は、もっと神聖なものにしなきゃ」

「神聖なものに……」

「まぁ、これにはちょっとした技術が必要なんだけどね。フツーの人にはできない」

 七五三くんが、キャンプファイヤーのそばまで私を連れていく。
 上から見る『井』型に組まれた木々。
 やっぱりこれ、マジでフツーのキャンプファイヤーだ……。

「このトウモロコシの粉を使って――まずはシンボルを描く」

「シンボル?」

「記号と言うか、絵と言うか――まぁ、象徴的なイラストだよ」

 七五三くんが、拳の中のトウモロコシの粉をサラサラと地面に落としていく。
 描き慣れているのか、土の上に、あっという間に絵が描かれていった。

 それは、何と言うか……古代の壁画とかでよく見る、あの感じだった。
 シンプルで、なんか子どものラクガキみたいなやつ。

「どう? なかなか上手く描けてるでしょ?」

「うん。まぁ、上手いけど……あなた、これ、何をやってるの? マジで意味がわかんない」

「ははははは。まぁ、そうだろうね。じゃあ、続きを描くよ」

 七五三くんが『井』の文字の他の辺に、似たような絵を追加していく。
 組まれたキャンプファイヤーの木々が、トウモロコシの粉で描かれたヘンな絵に囲まれた。

「で……これ、何?」

「ヴェヴェを使って、精霊を呼び出してるんだ。火の精霊。危ないから、少し下がった方がいい」

「火の、精霊?」

 七五三くんに手を取られ、二人で後ろに下がると、それはいきなり訪れた。

 ブワァッ!

 一瞬にして、私たちの目の前に組まれたキャンプファイヤーから大きな炎が噴き出してくる。
 ボーゼンと、私はそれを見つめた。

 火……火が点いた……。
 マッチも、ライターも、火打石も、虫眼鏡も使ってないのに……火が、点いた……。

「こ、これ……て、手品? 手品なの?」

「いや、違うよ。火の精霊が、ボクたちのために火を点けてくれたんだ」

「こ、こんなことって……」

「素敵な火だろ? 火の精霊が点けてくれた、本物の火だ。大人が扱う火より、めちゃくちゃ安全。だから『世界で一番安全なキャンプファイヤー』なんだよ」

「ね、ねぇ、七五三くん。わ、私、今、ものすごいものを見てない?」

「ははははは。それじゃあ、ボクたちの初めての祝祭をはじめよう。ちょっと待ってて」

 そう言って、七五三くんが家の中に戻っていく。
 私は、目の前で揺れる大きな炎を見つめていた。

 火が完全に組まれた木に燃え移ると、炎が少しずつ小さくなっていく。
 え、えっと……これ、火加減を調節してくれてます?
 自動で?
 って言うか、マジでこれ、火の精霊がやってくれてるの?

 な、謎すぎるでしょ……。
 めちゃくちゃ謎すぎる……。
 私の彼氏、トウモロコシの粉で、ホントに火を点けちゃったよ……。

「今日は、特別な日だ。めちゃくちゃ神聖で、美味しい物を作ろう」

 七五三くんが家から持ってきたのは、大きな一つの鍋だった。
 井桁型キャンプファイヤーの上に彼がそれを乗せると、火がちょうど良い感じに小さくなる。
 こ、これ、マジで……火が自動で調節されてるの?

「まず、バターを入れます」

 七五三くんが、バターのカケラを鍋の中に落としていく。
 ちょうど良い感じで、バターがとろけはじめた。

「そこに超みじん切りにした、タマネギを入れます」

 持ってきたプラスチックケースの中から、七五三くんがタマネギを入れる。
 す、すっごくみじん切り!
 こ、細かっ!

「次に食用に粉末にしておいた、トウモロコシの粉を入れます。これはさっきのとは違う、保存しておいた『実』の部分です。水を加えてフタをし、しばらく煮ます」

 バターとタマネギ、それからトウモロコシの粉末の匂いが庭中にただよってくる。
 な、何ですか、この匂い……。
 め、めちゃくちゃ良い匂いなんですけど……。

「こ、これ……今、何を作ってるの?」

「コーンポタージュだよ。ボクたちの祝祭に、コーンは不可欠なんだ」

「ふ、不可欠なんだ……」

「え? 嫌いだった?」

「ううん。ケッコー好き」

「だったら良かった」

「でもこんな風に、外で作る人は初めて見るよ」

「火の精霊の力を借りて作る、最高のコーンポタージュだ。きっとキミが、今まで食べたことのないような物になると思う」

「ま、まぁ、匂いだけで、かなり美味しそうだけど……」

 私と七五三くんは、庭に転がっている石に腰かけて、鍋が煮えるのを待つ。
 キャンプファイヤーの炎は、やっぱり弱火だ。
 ふ、不思議すぎるでしょ……。
 これって、やっぱ、マジで火の精霊が調節してくれてるんだろうか?

「葉月さんは、キャンプファイヤーの由来って知ってる?」

 キャンプファイヤーの炎を見つめながら、七五三くんが言った。

「キャンプファイヤーの由来? 由来って、あるの?」

「うん。あるよ。キャンプファイヤーっていうのはね、もともと宗教的な側面があるんだ」

「宗教的な、側面……」

「そう。現代の人々がやってるキャンプファイヤーは、その宗教的な側面を取り除いた、非常にカジュアルなものなんだよ」

「そ、そうなんだ……」

「火は古来より、暗闇を(はら)い、(けもの)を遠ざけ、(だん)をくれる……はい、セイ!」

「え……あ、えっと……火は古来より、暗闇を祓い、獣を遠ざけ、暖をくれる……」

「火は、古いものを焼きつくし、新しいものを生み出す」

「火は……古いものを焼きつくし、新しいものを生み出す」

「そして火は、人々の心をひとつにまとめる」

「そして火は、人々の心をひとつにまとめる……」

「これがキャンプファイヤーに込められた、本当の意味なんだ。なんか素敵だろ?」

「う、うん。素敵って言うか、ちょっと不思議」

「キャンプファイヤーの炎を見つめていると、一瞬ボーッとすることってない?」

「うん。ある」

「あれはね、火の精霊に引きつけられてるんだ。一つの炎をみんなで見つめることによって、人々には心の調和と一体感が出てくる。仲間意識を高めてくれてるんだよ」

「あぁ……だからキャンプをする時、みんなでキャンプファイヤーを囲むの?」

「うん。火は、使い方によってはとても危険なものだ。だけど人々の心を、ひとつにまとめる力があるんだよ」

「そんな深い意味があったんだ………」

「それでは次に――牛乳を入れます」

 七五三くんが石から立ち上がり、フタを開け、鍋に牛乳を入れる。
 彼のとなりに並び、私は鍋の中を見つめてみた。
 七五三くんがオタマでゆっくりとかき混ぜると、少しずつとろみがついてくる。

 め、めちゃくちゃ良い匂いだ……。
 ヤ、ヤバいよ、これ……。
 私の彼氏、自分ちの庭で、なぜかコーンポタージュを作っちゃったよ……。

 少量の塩を入れ、七五三くんが味をととのえる。
 私たちの祝祭における最高の料理が、あっという間に完成した。

       𖧧

 私たちは、庭の石に座って、できあがったばかりのコーンポタージュを食べる。

 な、何でしょうか、これ……。
 すごく……味が……深いです……。

 たしかにこんなの、今まで食べたことがない感じ……。
 お店とかでは、ちょっと食べれないレベルの逸品(いっぴん)……。

「どう? お味は?」

「う、うん……すごく……すごく美味しい……」

「良かった」

 私たちは、スプーンでコーンポタージュをすくい続ける。
 コーンポタージュを食べながら、私は、ふと、七五三くんに聞いてみる。
 夏休みの間中、ずっと心の中で思っていたことだ。

「ねぇ、七五三くん」

「ん?」

「私、ずっとあなたに聞いてみたかったことがあるんだけど?」

「うん。何?」

「どうして七五三くんは――私と付き合ってくれたの?」

「どうしてって……それはキミが、とても素敵な女の子だからだよ」

「素敵……私、素敵なの?」

「素敵だよ。ビックリするくらい美しい人だ」

「私より可愛い子なんて、めちゃくちゃたくさんいるんじゃない?」

「そうかな? キミの外見は、とても素敵だ。でもキミの場合、内面もとても美しい。二つが揃ってる女の人なんて、めったにいないよ」

「私、時々思うんだよね……」

「何を? 何を思うの?」

「七五三くんはね、これからめちゃくちゃモテまくるよ。学年の女子は、みんな夏休み前から、七五三くんのカッコよさに気づいてる……」

「へぇ」

「だからきっと……私は、七五三くんにそのうちフラレちゃうんだ」

「それは……ありえないな」

「な、なんで? どうしてそんな風に言い切れるの?」

「ボクがキミのこと、大好きだからだよ」

「大好き、なの?」

「うん。大好き。それに大好きじゃなきゃ、中一の夏の終わりに、キミにこの特別なコーンポタージュをもてなしたりはしない」

「七五三くんは、不思議な人だね……」

「そう? ボクから見たら、キミの方がかなり不思議な人だよ」

「私? 私が不思議なの?」

「不思議だよ。キミはボクにとって、とてもとても不思議な人だ」

 私たちがコーンポタージュを食べ終えると、目の前のキャンプファイヤーの炎が静かに消えていった。
 やっぱ、これ、自動。
 たぶん火の精霊が、ここから立ち去ったんだと思う。

 ユラユラと空に舞い上がっていくキャンプファイヤーの煙を見上げながら、私は思う。

 こういうの、私はまた食べれるんだろうか?
 たぶんだけど、私と七五三くんがいっしょにいる限り、彼は食べさせてくれるような気がする。

 そしてそのようにして――私たちの中一・夏の祝祭は終わった。

       𖧧

「それじゃあ、気をつけて帰ってね」

 外が薄暗くなりはじめた頃、私と七五三くんは橋のそばにいた。
 いつものように、彼が私を見送ってくれる。

「うん。今日はごちそうさま。すごくおいしかったよ。七五三くんのコーンポタージュ」

「どういたしまして。ボクも葉月さんと祝祭を行えて、すごくうれしかった」

「ねぇ、七五三くん」

「ん?」

「もしかしてとは思うんだけど……これから、秋の終わりの祝祭とか、冬の終わりの祝祭とか、春の終わりの祝祭とか、そういうのがあったりする?」

「すごいね、キミは。もちろんあるよ」

「そういうの、また私といっしょにやってくれる?」

「もちろん」

「どうして?」

「どうしてって……キミが、ボクの彼女だから?」

「私が、七五三くんの彼女だから……」

「あれ? なんかボク、ヘンなこと言った?」

「ううん。あなたはいつもヘンだよ」

 自転車に乗って、私は彼を振り返る。

「私はね、これからもずっとね、七五三くんと色んな祝祭をしたいよ。あなた、私の彼氏だから」

 私の言葉に、七五三くんは薄っすらとほほ笑む。
 私たちは、笑顔でうなづき合った。

「それじゃあ、帰るね。また明日、学校で!」

「うん。また明日、学校で! 気をつけて帰ってね!」

 私は、自転車で走り出す。
 少し走って振り返ると、七五三くんは私に向かって手を振っていた。
 私も、彼に手を振り返す。

 中学に入って――私には彼氏ができた。
 彼は、とてもヘンな人。
 めちゃくちゃ、アレな人。
 つまり、アレカレ!

 でも――私は彼のことが大好き。

 私たちは、フツーのカップルみたいな日々は過ごせない。
 だけどフツーのカップルじゃ過ごせない日々を、私たちは送ってる。

 七五三くんが、私の彼氏になってくれて良かったな……。

 まもなく夏が終わり、これから秋になっていく。
 秋になったら、また彼との不思議な日々が始まるのかな?

 私――それがホントに楽しみで、仕方がないよ♪