夏の終わりが近づいている。
今年の夏休みは、ほとんど七五三くんの家で過ごした。
夏休み前より、少し頭が良くなったような気がする。
なぜなら七五三くんが、学年トップだから。
私がわかるまで、彼は根気強く勉強を教えてくれた。
おまけに七五三くんは、いつもお昼ごはんを用意してくれる。
しかも全部、お店みたいな料理ばっか。
あれだけ食べて太らないってことは、きっと彼は栄養のバランスまで考えてくれてるんだろう。
イケメン。勉強ができる。料理が上手い。やさしい。
私の彼氏って、サイコー。
でも……この夏休みの間中、私にはずっと謎だったことがある。
それは、彼のおじいさまの幽霊屋敷の玄関に、ずっとぶら下がっていた物。
つまり――トウモロコシだ。
そのトウモロコシには、『実』つまり『粒』が一つもついてない。
全部食べたあとなのか、指で粒を外したあとなのか。
もう食べるところがないトウモロコシが、二、三十本も玄関先にぶら下がっているのだ。
そのシーンは、めちゃくちゃ謎すぎるのである。
「ねぇ、七五三くん」
夏休み終了の二日前、私はついに七五三くんにそれを聞いてみることにした。
「何?」
「私、この夏休みの間、ずっとあなたに聞いてみたかったことがあるんだけど?」
「あぁ、そういえば……明日で夏休みが終わるね」
「うん。でね、これ――何?」
玄関先にぶら下がってるトウモロコシを指さし、私は聞いた。
私の質問に、彼が「え?」と驚いた表情を浮かべる。
「し、知らないの? これはね、トウモロコシっていう――」
「ううん。そうじゃないの」
「……」
「私が聞きたいのは、どうしてもう食べるところがないトウモロコシが、こんなとこにぶら下がってるのかってこと」
「あぁ、うん。それはね、ドラキュラ除けだよ。彼らは、トウモロコシを嫌うんだ」
「ドラキュラが嫌いなのは、ニンニクだよね? 私、真面目に聞いてるんだよ?」
「まいったなぁ。まさかそこに気づかれるとは……」
「いや、気づくでしょ。ここ、玄関だし」
「でも、ま、いっか。ホントはキミをビックリさせようと思ってたんだけど」
「私を? ビックリ?」
「うん」
「こんなのが玄関先にぶら下がってる段階で、かなりビックリだよ。もしかして七五三くん、トウモロコシが大好きだったりする?」
「いや。トウモロコシは好きだけど、まぁ、大好きってほどじゃないかな。このトウモロコシはね、夏の終わりに必要な物なんだ」
「夏の終わりに? 必要?」
「明日、夏休み最後の日だよね? だったら、明日教えるよ」
「今じゃダメなの?」
「うん。今じゃダメ」
そう言うと、七五三くんは、いつものように橋の近くまで私を送ってくれる。
「じゃあ、また明日」
彼にそう手を振られ、私たちは別れた。
家に向かってペダルを漕ぎながら、私はやっぱり首をひねる。
玄関先にぶら下げられた、もう食べるとこがないトウモロコシ。
夏の終わりに必要な物。
それは何か――行事的なものなのかな?
お盆に、ナスやキュウリが必要、みたいな?
付き合いはじめてからもう三ヶ月くらい経つけど……七五三くんが一体何を考えているのか、私、いまだによくわかんない。
やっぱり彼は、すごくヘン!
もぉ、めちゃくちゃ、アレ!
𖧧
翌日の午前中――七五三くんの家にお邪魔した私は、お昼ごはんにソーメンをごちそうになった。
結局、七五三くんちのソーメンは、夏の終わりまで無くならなかった。
宿題の残りを終え、彼といっしょにゲームをする。
七五三くんがゲーム機を持ってるとか、意外だったけど……まだ新しい感じだから、もしかして私のために買ってくれたのかな?
で、ゲームをしながら、私は思った。
今年は……本当に不思議な夏だったな……。
初めての彼氏ができたっていうのに、私たちはフツーの恋人たちがするようなイベントを何もしてない。
花火も、お祭りも、プールも、デートも。
二人で宿題をしたり、ソーメンを食べたり、宇宙で水風呂に入ったり、そういうことばっかしてた。
クラスの彼氏持ちの女子も、みんなこんな夏を過ごしたのだろうか?
気がつくと、あっという間に、外はもう夕方になりはじめてる。
七五三くんといっしょにいると、時間だけは早く経つ。
私たちの初めての夏は、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
「ねぇ、葉月さん。ひょっとして、そろそろ帰る?」
ゲームが途切れたタイミングで、突然、七五三くんが言った。
「え? あぁ、帰った方がいい? 何か用事がある?」
「いや、そうじゃなくて。ボクはべつに泊まってくれてもいいんだけど、キミはそういうわけにもいかないだろ?」
「まぁ、そうだけど……」
「帰る前に、あの干したトウモロコシの謎を教えるよ」
「え? ホントに?」
「うん。準備するから、ちょっと待っててくれる?」
そう言うと、七五三くんはリビングから出ていった。
つ、ついに、あのぶら下がったトウモロコシの謎を教えてもらえるの?
う、うわぁ!
それは楽しみ!
楽しみすぎるよ!
私がワクワクと待っていると、彼はすぐに戻ってきた。
でも――ふたたび登場した彼の姿を見て、私は、ちょっとドン引きする。
彼は……たくさんのカラフルな布切れを縫い合わせたような、ポンチョっぽい衣装に着替えていた。
エスニックって言うのかな……どこかの民族衣装?
少なくとも、この日本ではあまり着ている人がいない感じの……。
「あ、あの……何、その服? どうしたの? って言うか、そんなの、どこに売ってるの?」
「うん。これはね、おじいちゃんが昔、ボク用に買ってきてくれたものなんだ」
「お、おじいさまが……」
オカルト研究家だった、七五三くんのおじいちゃん。
たしかに……そういったご職業の方が、お土産で買ってきそうな服だ……。
「その衣装が、あのトウモロコシと、何か関係があるの?」
「めちゃくちゃ関係があるよ。むしろ、この衣装じゃなきゃいけない」
「い、いけないんだ……」
「庭に出よう。儀式を行う」
「ぎ、儀式ぃ?」
私が声を裏返すと、七五三くんがキリッとしたイケメン顔をこちらに向けた。
「ボクたちの初めての夏が終わる――その、祝祭だよ」
「しゅ、祝祭?」
はい。
私の彼氏・七五三くんは……本当に意味がわかりません……。
この人って、一体何なのでしょう?
儀式って、何ですか?
祝祭って、何を祝うの?
七五三くんが、一人でスタスタと玄関に向かっていく。
そんな彼に、私はついていくしかありません……。
𖧧
幽霊屋敷の庭に出ると――いつの間にか、そこにはキャンプファイヤーの薪が組まれていた。
いわゆる、井桁型。
木を『井』の文字みたいに重ね合わせるスタイル。
こんなの、いつの間に作ったの?
今日私がここに来た時、こんな木、庭に組まれてたっけ?
「あの、七五三くん。儀式って……もしかしてキャンプファイヤー?」
「うん。やったことある?」
「昔、ちょっとだけ。家族でキャンプに行った時、パパが組んでくれた」
「だったら、話が早いな。ボクたちの儀式には、このキャンプファイヤーが不可欠なんだ」
「で、でも――」
勇気を出して、私は七五三くんに言う。
「やっぱ、これ、良くないよ。いくら自分ちの庭だからって、私たち、中一だよ? 二人だけで、こんな風に火を扱うって、ゼッタイに危ないと思う」
私の言葉に、ヘンな衣装を着た七五三くんが肩をすくめる。
「いやいや。大丈夫だよ。ボクたちが今からやるのは、世界で一番安全なキャンプファイヤーなんだ」
「世界で、一番安全?」
「そう。ボクは、マッチもライターも使わない。もちろん、火打石も虫眼鏡もね」
「じゃあ、どうやって火を点けるの?」
「これさ」
衣装の中に手を入れ、七五三くんがゴソゴソと何かを取り出す。
私の前に拳を突き出し、手を開くと――そこにはサラサラとした黄色い粉が握られていた。
「こ、これは?」
「キミがずっと謎に思っていた物だよ」
「私が、謎に?」
「これは、玄関にぶら下がっていた、あのトウモロコシさ」
「え? ト、トウモロコシ? これ、あれなの?」
「うん。今日キミが来る前に、粉末機で粉にしておいたんだ。夏の間中、ずっと干してたから、なかなかいい感じに仕上がった。触ってみる?」
私は、七五三くんの手のひらにある、黄色い粉を触ってみる。
たしかに、よく乾いている。
匂ってみると、それはたしかにトウモロコシの匂いがした。
「でもこのトウモロコシの粉で、どうやって火を点けるの? 摩擦を利用する、みたいな?」
「まさか。そんなものを利用したら、この儀式が全部台無しになる。ボクとキミの儀式は、もっと神聖なものにしなきゃ」
「神聖なものに……」
「まぁ、これにはちょっとした技術が必要なんだけどね。フツーの人にはできない」
七五三くんが、キャンプファイヤーのそばまで私を連れていく。
上から見る『井』型に組まれた木々。
やっぱりこれ、マジでフツーのキャンプファイヤーだ……。
「このトウモロコシの粉を使って――まずはシンボルを描く」
「シンボル?」
「記号と言うか、絵と言うか――まぁ、象徴的なイラストだよ」
七五三くんが、拳の中のトウモロコシの粉をサラサラと地面に落としていく。
描き慣れているのか、土の上に、あっという間に絵が描かれていった。
それは、何と言うか……古代の壁画とかでよく見る、あの感じだった。
シンプルで、なんか子どものラクガキみたいなやつ。
「どう? なかなか上手く描けてるでしょ?」
「うん。まぁ、上手いけど……あなた、これ、何をやってるの? マジで意味がわかんない」
「ははははは。まぁ、そうだろうね。じゃあ、続きを描くよ」
七五三くんが『井』の文字の他の辺に、似たような絵を追加していく。
組まれたキャンプファイヤーの木々が、トウモロコシの粉で描かれたヘンな絵に囲まれた。
「で……これ、何?」
「ヴェヴェを使って、精霊を呼び出してるんだ。火の精霊。危ないから、少し下がった方がいい」
「火の、精霊?」
七五三くんに手を取られ、二人で後ろに下がると、それはいきなり訪れた。
ブワァッ!
一瞬にして、私たちの目の前に組まれたキャンプファイヤーから大きな炎が噴き出してくる。
ボーゼンと、私はそれを見つめた。
火……火が点いた……。
マッチも、ライターも、火打石も、虫眼鏡も使ってないのに……火が、点いた……。
「こ、これ……て、手品? 手品なの?」
「いや、違うよ。火の精霊が、ボクたちのために火を点けてくれたんだ」
「こ、こんなことって……」
「素敵な火だろ? 火の精霊が点けてくれた、本物の火だ。大人が扱う火より、めちゃくちゃ安全。だから『世界で一番安全なキャンプファイヤー』なんだよ」
「ね、ねぇ、七五三くん。わ、私、今、ものすごいものを見てない?」
「ははははは。それじゃあ、ボクたちの初めての祝祭をはじめよう。ちょっと待ってて」
そう言って、七五三くんが家の中に戻っていく。
私は、目の前で揺れる大きな炎を見つめていた。
火が完全に組まれた木に燃え移ると、炎が少しずつ小さくなっていく。
え、えっと……これ、火加減を調節してくれてます?
自動で?
って言うか、マジでこれ、火の精霊がやってくれてるの?
な、謎すぎるでしょ……。
めちゃくちゃ謎すぎる……。
私の彼氏、トウモロコシの粉で、ホントに火を点けちゃったよ……。
「今日は、特別な日だ。めちゃくちゃ神聖で、美味しい物を作ろう」
七五三くんが家から持ってきたのは、大きな一つの鍋だった。
井桁型キャンプファイヤーの上に彼がそれを乗せると、火がちょうど良い感じに小さくなる。
こ、これ、マジで……火が自動で調節されてるの?
「まず、バターを入れます」
七五三くんが、バターのカケラを鍋の中に落としていく。
ちょうど良い感じで、バターがとろけはじめた。
「そこに超みじん切りにした、タマネギを入れます」
持ってきたプラスチックケースの中から、七五三くんがタマネギを入れる。
す、すっごくみじん切り!
こ、細かっ!
「次に食用に粉末にしておいた、トウモロコシの粉を入れます。これはさっきのとは違う、保存しておいた『実』の部分です。水を加えてフタをし、しばらく煮ます」
バターとタマネギ、それからトウモロコシの粉末の匂いが庭中にただよってくる。
な、何ですか、この匂い……。
め、めちゃくちゃ良い匂いなんですけど……。
「こ、これ……今、何を作ってるの?」
「コーンポタージュだよ。ボクたちの祝祭に、コーンは不可欠なんだ」
「ふ、不可欠なんだ……」
「え? 嫌いだった?」
「ううん。ケッコー好き」
「だったら良かった」
「でもこんな風に、外で作る人は初めて見るよ」
「火の精霊の力を借りて作る、最高のコーンポタージュだ。きっとキミが、今まで食べたことのないような物になると思う」
「ま、まぁ、匂いだけで、かなり美味しそうだけど……」
私と七五三くんは、庭に転がっている石に腰かけて、鍋が煮えるのを待つ。
キャンプファイヤーの炎は、やっぱり弱火だ。
ふ、不思議すぎるでしょ……。
これって、やっぱ、マジで火の精霊が調節してくれてるんだろうか?
「葉月さんは、キャンプファイヤーの由来って知ってる?」
キャンプファイヤーの炎を見つめながら、七五三くんが言った。
「キャンプファイヤーの由来? 由来って、あるの?」
「うん。あるよ。キャンプファイヤーっていうのはね、もともと宗教的な側面があるんだ」
「宗教的な、側面……」
「そう。現代の人々がやってるキャンプファイヤーは、その宗教的な側面を取り除いた、非常にカジュアルなものなんだよ」
「そ、そうなんだ……」
「火は古来より、暗闇を祓い、獣を遠ざけ、暖をくれる……はい、セイ!」
「え……あ、えっと……火は古来より、暗闇を祓い、獣を遠ざけ、暖をくれる……」
「火は、古いものを焼きつくし、新しいものを生み出す」
「火は……古いものを焼きつくし、新しいものを生み出す」
「そして火は、人々の心をひとつにまとめる」
「そして火は、人々の心をひとつにまとめる……」
「これがキャンプファイヤーに込められた、本当の意味なんだ。なんか素敵だろ?」
「う、うん。素敵って言うか、ちょっと不思議」
「キャンプファイヤーの炎を見つめていると、一瞬ボーッとすることってない?」
「うん。ある」
「あれはね、火の精霊に引きつけられてるんだ。一つの炎をみんなで見つめることによって、人々には心の調和と一体感が出てくる。仲間意識を高めてくれてるんだよ」
「あぁ……だからキャンプをする時、みんなでキャンプファイヤーを囲むの?」
「うん。火は、使い方によってはとても危険なものだ。だけど人々の心を、ひとつにまとめる力があるんだよ」
「そんな深い意味があったんだ………」
「それでは次に――牛乳を入れます」
七五三くんが石から立ち上がり、フタを開け、鍋に牛乳を入れる。
彼のとなりに並び、私は鍋の中を見つめてみた。
七五三くんがオタマでゆっくりとかき混ぜると、少しずつとろみがついてくる。
め、めちゃくちゃ良い匂いだ……。
ヤ、ヤバいよ、これ……。
私の彼氏、自分ちの庭で、なぜかコーンポタージュを作っちゃったよ……。
少量の塩を入れ、七五三くんが味をととのえる。
私たちの祝祭における最高の料理が、あっという間に完成した。
𖧧
私たちは、庭の石に座って、できあがったばかりのコーンポタージュを食べる。
な、何でしょうか、これ……。
すごく……味が……深いです……。
たしかにこんなの、今まで食べたことがない感じ……。
お店とかでは、ちょっと食べれないレベルの逸品……。
「どう? お味は?」
「う、うん……すごく……すごく美味しい……」
「良かった」
私たちは、スプーンでコーンポタージュをすくい続ける。
コーンポタージュを食べながら、私は、ふと、七五三くんに聞いてみる。
夏休みの間中、ずっと心の中で思っていたことだ。
「ねぇ、七五三くん」
「ん?」
「私、ずっとあなたに聞いてみたかったことがあるんだけど?」
「うん。何?」
「どうして七五三くんは――私と付き合ってくれたの?」
「どうしてって……それはキミが、とても素敵な女の子だからだよ」
「素敵……私、素敵なの?」
「素敵だよ。ビックリするくらい美しい人だ」
「私より可愛い子なんて、めちゃくちゃたくさんいるんじゃない?」
「そうかな? キミの外見は、とても素敵だ。でもキミの場合、内面もとても美しい。二つが揃ってる女の人なんて、めったにいないよ」
「私、時々思うんだよね……」
「何を? 何を思うの?」
「七五三くんはね、これからめちゃくちゃモテまくるよ。学年の女子は、みんな夏休み前から、七五三くんのカッコよさに気づいてる……」
「へぇ」
「だからきっと……私は、七五三くんにそのうちフラレちゃうんだ」
「それは……ありえないな」
「な、なんで? どうしてそんな風に言い切れるの?」
「ボクがキミのこと、大好きだからだよ」
「大好き、なの?」
「うん。大好き。それに大好きじゃなきゃ、中一の夏の終わりに、キミにこの特別なコーンポタージュをもてなしたりはしない」
「七五三くんは、不思議な人だね……」
「そう? ボクから見たら、キミの方がかなり不思議な人だよ」
「私? 私が不思議なの?」
「不思議だよ。キミはボクにとって、とてもとても不思議な人だ」
私たちがコーンポタージュを食べ終えると、目の前のキャンプファイヤーの炎が静かに消えていった。
やっぱ、これ、自動。
たぶん火の精霊が、ここから立ち去ったんだと思う。
ユラユラと空に舞い上がっていくキャンプファイヤーの煙を見上げながら、私は思う。
こういうの、私はまた食べれるんだろうか?
たぶんだけど、私と七五三くんがいっしょにいる限り、彼は食べさせてくれるような気がする。
そしてそのようにして――私たちの中一・夏の祝祭は終わった。
𖧧
「それじゃあ、気をつけて帰ってね」
外が薄暗くなりはじめた頃、私と七五三くんは橋のそばにいた。
いつものように、彼が私を見送ってくれる。
「うん。今日はごちそうさま。すごくおいしかったよ。七五三くんのコーンポタージュ」
「どういたしまして。ボクも葉月さんと祝祭を行えて、すごくうれしかった」
「ねぇ、七五三くん」
「ん?」
「もしかしてとは思うんだけど……これから、秋の終わりの祝祭とか、冬の終わりの祝祭とか、春の終わりの祝祭とか、そういうのがあったりする?」
「すごいね、キミは。もちろんあるよ」
「そういうの、また私といっしょにやってくれる?」
「もちろん」
「どうして?」
「どうしてって……キミが、ボクの彼女だから?」
「私が、七五三くんの彼女だから……」
「あれ? なんかボク、ヘンなこと言った?」
「ううん。あなたはいつもヘンだよ」
自転車に乗って、私は彼を振り返る。
「私はね、これからもずっとね、七五三くんと色んな祝祭をしたいよ。あなた、私の彼氏だから」
私の言葉に、七五三くんは薄っすらとほほ笑む。
私たちは、笑顔でうなづき合った。
「それじゃあ、帰るね。また明日、学校で!」
「うん。また明日、学校で! 気をつけて帰ってね!」
私は、自転車で走り出す。
少し走って振り返ると、七五三くんは私に向かって手を振っていた。
私も、彼に手を振り返す。
中学に入って――私には彼氏ができた。
彼は、とてもヘンな人。
めちゃくちゃ、アレな人。
つまり、アレカレ!
でも――私は彼のことが大好き。
私たちは、フツーのカップルみたいな日々は過ごせない。
だけどフツーのカップルじゃ過ごせない日々を、私たちは送ってる。
七五三くんが、私の彼氏になってくれて良かったな……。
まもなく夏が終わり、これから秋になっていく。
秋になったら、また彼との不思議な日々が始まるのかな?
私――それがホントに楽しみで、仕方がないよ♪
今年の夏休みは、ほとんど七五三くんの家で過ごした。
夏休み前より、少し頭が良くなったような気がする。
なぜなら七五三くんが、学年トップだから。
私がわかるまで、彼は根気強く勉強を教えてくれた。
おまけに七五三くんは、いつもお昼ごはんを用意してくれる。
しかも全部、お店みたいな料理ばっか。
あれだけ食べて太らないってことは、きっと彼は栄養のバランスまで考えてくれてるんだろう。
イケメン。勉強ができる。料理が上手い。やさしい。
私の彼氏って、サイコー。
でも……この夏休みの間中、私にはずっと謎だったことがある。
それは、彼のおじいさまの幽霊屋敷の玄関に、ずっとぶら下がっていた物。
つまり――トウモロコシだ。
そのトウモロコシには、『実』つまり『粒』が一つもついてない。
全部食べたあとなのか、指で粒を外したあとなのか。
もう食べるところがないトウモロコシが、二、三十本も玄関先にぶら下がっているのだ。
そのシーンは、めちゃくちゃ謎すぎるのである。
「ねぇ、七五三くん」
夏休み終了の二日前、私はついに七五三くんにそれを聞いてみることにした。
「何?」
「私、この夏休みの間、ずっとあなたに聞いてみたかったことがあるんだけど?」
「あぁ、そういえば……明日で夏休みが終わるね」
「うん。でね、これ――何?」
玄関先にぶら下がってるトウモロコシを指さし、私は聞いた。
私の質問に、彼が「え?」と驚いた表情を浮かべる。
「し、知らないの? これはね、トウモロコシっていう――」
「ううん。そうじゃないの」
「……」
「私が聞きたいのは、どうしてもう食べるところがないトウモロコシが、こんなとこにぶら下がってるのかってこと」
「あぁ、うん。それはね、ドラキュラ除けだよ。彼らは、トウモロコシを嫌うんだ」
「ドラキュラが嫌いなのは、ニンニクだよね? 私、真面目に聞いてるんだよ?」
「まいったなぁ。まさかそこに気づかれるとは……」
「いや、気づくでしょ。ここ、玄関だし」
「でも、ま、いっか。ホントはキミをビックリさせようと思ってたんだけど」
「私を? ビックリ?」
「うん」
「こんなのが玄関先にぶら下がってる段階で、かなりビックリだよ。もしかして七五三くん、トウモロコシが大好きだったりする?」
「いや。トウモロコシは好きだけど、まぁ、大好きってほどじゃないかな。このトウモロコシはね、夏の終わりに必要な物なんだ」
「夏の終わりに? 必要?」
「明日、夏休み最後の日だよね? だったら、明日教えるよ」
「今じゃダメなの?」
「うん。今じゃダメ」
そう言うと、七五三くんは、いつものように橋の近くまで私を送ってくれる。
「じゃあ、また明日」
彼にそう手を振られ、私たちは別れた。
家に向かってペダルを漕ぎながら、私はやっぱり首をひねる。
玄関先にぶら下げられた、もう食べるとこがないトウモロコシ。
夏の終わりに必要な物。
それは何か――行事的なものなのかな?
お盆に、ナスやキュウリが必要、みたいな?
付き合いはじめてからもう三ヶ月くらい経つけど……七五三くんが一体何を考えているのか、私、いまだによくわかんない。
やっぱり彼は、すごくヘン!
もぉ、めちゃくちゃ、アレ!
𖧧
翌日の午前中――七五三くんの家にお邪魔した私は、お昼ごはんにソーメンをごちそうになった。
結局、七五三くんちのソーメンは、夏の終わりまで無くならなかった。
宿題の残りを終え、彼といっしょにゲームをする。
七五三くんがゲーム機を持ってるとか、意外だったけど……まだ新しい感じだから、もしかして私のために買ってくれたのかな?
で、ゲームをしながら、私は思った。
今年は……本当に不思議な夏だったな……。
初めての彼氏ができたっていうのに、私たちはフツーの恋人たちがするようなイベントを何もしてない。
花火も、お祭りも、プールも、デートも。
二人で宿題をしたり、ソーメンを食べたり、宇宙で水風呂に入ったり、そういうことばっかしてた。
クラスの彼氏持ちの女子も、みんなこんな夏を過ごしたのだろうか?
気がつくと、あっという間に、外はもう夕方になりはじめてる。
七五三くんといっしょにいると、時間だけは早く経つ。
私たちの初めての夏は、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
「ねぇ、葉月さん。ひょっとして、そろそろ帰る?」
ゲームが途切れたタイミングで、突然、七五三くんが言った。
「え? あぁ、帰った方がいい? 何か用事がある?」
「いや、そうじゃなくて。ボクはべつに泊まってくれてもいいんだけど、キミはそういうわけにもいかないだろ?」
「まぁ、そうだけど……」
「帰る前に、あの干したトウモロコシの謎を教えるよ」
「え? ホントに?」
「うん。準備するから、ちょっと待っててくれる?」
そう言うと、七五三くんはリビングから出ていった。
つ、ついに、あのぶら下がったトウモロコシの謎を教えてもらえるの?
う、うわぁ!
それは楽しみ!
楽しみすぎるよ!
私がワクワクと待っていると、彼はすぐに戻ってきた。
でも――ふたたび登場した彼の姿を見て、私は、ちょっとドン引きする。
彼は……たくさんのカラフルな布切れを縫い合わせたような、ポンチョっぽい衣装に着替えていた。
エスニックって言うのかな……どこかの民族衣装?
少なくとも、この日本ではあまり着ている人がいない感じの……。
「あ、あの……何、その服? どうしたの? って言うか、そんなの、どこに売ってるの?」
「うん。これはね、おじいちゃんが昔、ボク用に買ってきてくれたものなんだ」
「お、おじいさまが……」
オカルト研究家だった、七五三くんのおじいちゃん。
たしかに……そういったご職業の方が、お土産で買ってきそうな服だ……。
「その衣装が、あのトウモロコシと、何か関係があるの?」
「めちゃくちゃ関係があるよ。むしろ、この衣装じゃなきゃいけない」
「い、いけないんだ……」
「庭に出よう。儀式を行う」
「ぎ、儀式ぃ?」
私が声を裏返すと、七五三くんがキリッとしたイケメン顔をこちらに向けた。
「ボクたちの初めての夏が終わる――その、祝祭だよ」
「しゅ、祝祭?」
はい。
私の彼氏・七五三くんは……本当に意味がわかりません……。
この人って、一体何なのでしょう?
儀式って、何ですか?
祝祭って、何を祝うの?
七五三くんが、一人でスタスタと玄関に向かっていく。
そんな彼に、私はついていくしかありません……。
𖧧
幽霊屋敷の庭に出ると――いつの間にか、そこにはキャンプファイヤーの薪が組まれていた。
いわゆる、井桁型。
木を『井』の文字みたいに重ね合わせるスタイル。
こんなの、いつの間に作ったの?
今日私がここに来た時、こんな木、庭に組まれてたっけ?
「あの、七五三くん。儀式って……もしかしてキャンプファイヤー?」
「うん。やったことある?」
「昔、ちょっとだけ。家族でキャンプに行った時、パパが組んでくれた」
「だったら、話が早いな。ボクたちの儀式には、このキャンプファイヤーが不可欠なんだ」
「で、でも――」
勇気を出して、私は七五三くんに言う。
「やっぱ、これ、良くないよ。いくら自分ちの庭だからって、私たち、中一だよ? 二人だけで、こんな風に火を扱うって、ゼッタイに危ないと思う」
私の言葉に、ヘンな衣装を着た七五三くんが肩をすくめる。
「いやいや。大丈夫だよ。ボクたちが今からやるのは、世界で一番安全なキャンプファイヤーなんだ」
「世界で、一番安全?」
「そう。ボクは、マッチもライターも使わない。もちろん、火打石も虫眼鏡もね」
「じゃあ、どうやって火を点けるの?」
「これさ」
衣装の中に手を入れ、七五三くんがゴソゴソと何かを取り出す。
私の前に拳を突き出し、手を開くと――そこにはサラサラとした黄色い粉が握られていた。
「こ、これは?」
「キミがずっと謎に思っていた物だよ」
「私が、謎に?」
「これは、玄関にぶら下がっていた、あのトウモロコシさ」
「え? ト、トウモロコシ? これ、あれなの?」
「うん。今日キミが来る前に、粉末機で粉にしておいたんだ。夏の間中、ずっと干してたから、なかなかいい感じに仕上がった。触ってみる?」
私は、七五三くんの手のひらにある、黄色い粉を触ってみる。
たしかに、よく乾いている。
匂ってみると、それはたしかにトウモロコシの匂いがした。
「でもこのトウモロコシの粉で、どうやって火を点けるの? 摩擦を利用する、みたいな?」
「まさか。そんなものを利用したら、この儀式が全部台無しになる。ボクとキミの儀式は、もっと神聖なものにしなきゃ」
「神聖なものに……」
「まぁ、これにはちょっとした技術が必要なんだけどね。フツーの人にはできない」
七五三くんが、キャンプファイヤーのそばまで私を連れていく。
上から見る『井』型に組まれた木々。
やっぱりこれ、マジでフツーのキャンプファイヤーだ……。
「このトウモロコシの粉を使って――まずはシンボルを描く」
「シンボル?」
「記号と言うか、絵と言うか――まぁ、象徴的なイラストだよ」
七五三くんが、拳の中のトウモロコシの粉をサラサラと地面に落としていく。
描き慣れているのか、土の上に、あっという間に絵が描かれていった。
それは、何と言うか……古代の壁画とかでよく見る、あの感じだった。
シンプルで、なんか子どものラクガキみたいなやつ。
「どう? なかなか上手く描けてるでしょ?」
「うん。まぁ、上手いけど……あなた、これ、何をやってるの? マジで意味がわかんない」
「ははははは。まぁ、そうだろうね。じゃあ、続きを描くよ」
七五三くんが『井』の文字の他の辺に、似たような絵を追加していく。
組まれたキャンプファイヤーの木々が、トウモロコシの粉で描かれたヘンな絵に囲まれた。
「で……これ、何?」
「ヴェヴェを使って、精霊を呼び出してるんだ。火の精霊。危ないから、少し下がった方がいい」
「火の、精霊?」
七五三くんに手を取られ、二人で後ろに下がると、それはいきなり訪れた。
ブワァッ!
一瞬にして、私たちの目の前に組まれたキャンプファイヤーから大きな炎が噴き出してくる。
ボーゼンと、私はそれを見つめた。
火……火が点いた……。
マッチも、ライターも、火打石も、虫眼鏡も使ってないのに……火が、点いた……。
「こ、これ……て、手品? 手品なの?」
「いや、違うよ。火の精霊が、ボクたちのために火を点けてくれたんだ」
「こ、こんなことって……」
「素敵な火だろ? 火の精霊が点けてくれた、本物の火だ。大人が扱う火より、めちゃくちゃ安全。だから『世界で一番安全なキャンプファイヤー』なんだよ」
「ね、ねぇ、七五三くん。わ、私、今、ものすごいものを見てない?」
「ははははは。それじゃあ、ボクたちの初めての祝祭をはじめよう。ちょっと待ってて」
そう言って、七五三くんが家の中に戻っていく。
私は、目の前で揺れる大きな炎を見つめていた。
火が完全に組まれた木に燃え移ると、炎が少しずつ小さくなっていく。
え、えっと……これ、火加減を調節してくれてます?
自動で?
って言うか、マジでこれ、火の精霊がやってくれてるの?
な、謎すぎるでしょ……。
めちゃくちゃ謎すぎる……。
私の彼氏、トウモロコシの粉で、ホントに火を点けちゃったよ……。
「今日は、特別な日だ。めちゃくちゃ神聖で、美味しい物を作ろう」
七五三くんが家から持ってきたのは、大きな一つの鍋だった。
井桁型キャンプファイヤーの上に彼がそれを乗せると、火がちょうど良い感じに小さくなる。
こ、これ、マジで……火が自動で調節されてるの?
「まず、バターを入れます」
七五三くんが、バターのカケラを鍋の中に落としていく。
ちょうど良い感じで、バターがとろけはじめた。
「そこに超みじん切りにした、タマネギを入れます」
持ってきたプラスチックケースの中から、七五三くんがタマネギを入れる。
す、すっごくみじん切り!
こ、細かっ!
「次に食用に粉末にしておいた、トウモロコシの粉を入れます。これはさっきのとは違う、保存しておいた『実』の部分です。水を加えてフタをし、しばらく煮ます」
バターとタマネギ、それからトウモロコシの粉末の匂いが庭中にただよってくる。
な、何ですか、この匂い……。
め、めちゃくちゃ良い匂いなんですけど……。
「こ、これ……今、何を作ってるの?」
「コーンポタージュだよ。ボクたちの祝祭に、コーンは不可欠なんだ」
「ふ、不可欠なんだ……」
「え? 嫌いだった?」
「ううん。ケッコー好き」
「だったら良かった」
「でもこんな風に、外で作る人は初めて見るよ」
「火の精霊の力を借りて作る、最高のコーンポタージュだ。きっとキミが、今まで食べたことのないような物になると思う」
「ま、まぁ、匂いだけで、かなり美味しそうだけど……」
私と七五三くんは、庭に転がっている石に腰かけて、鍋が煮えるのを待つ。
キャンプファイヤーの炎は、やっぱり弱火だ。
ふ、不思議すぎるでしょ……。
これって、やっぱ、マジで火の精霊が調節してくれてるんだろうか?
「葉月さんは、キャンプファイヤーの由来って知ってる?」
キャンプファイヤーの炎を見つめながら、七五三くんが言った。
「キャンプファイヤーの由来? 由来って、あるの?」
「うん。あるよ。キャンプファイヤーっていうのはね、もともと宗教的な側面があるんだ」
「宗教的な、側面……」
「そう。現代の人々がやってるキャンプファイヤーは、その宗教的な側面を取り除いた、非常にカジュアルなものなんだよ」
「そ、そうなんだ……」
「火は古来より、暗闇を祓い、獣を遠ざけ、暖をくれる……はい、セイ!」
「え……あ、えっと……火は古来より、暗闇を祓い、獣を遠ざけ、暖をくれる……」
「火は、古いものを焼きつくし、新しいものを生み出す」
「火は……古いものを焼きつくし、新しいものを生み出す」
「そして火は、人々の心をひとつにまとめる」
「そして火は、人々の心をひとつにまとめる……」
「これがキャンプファイヤーに込められた、本当の意味なんだ。なんか素敵だろ?」
「う、うん。素敵って言うか、ちょっと不思議」
「キャンプファイヤーの炎を見つめていると、一瞬ボーッとすることってない?」
「うん。ある」
「あれはね、火の精霊に引きつけられてるんだ。一つの炎をみんなで見つめることによって、人々には心の調和と一体感が出てくる。仲間意識を高めてくれてるんだよ」
「あぁ……だからキャンプをする時、みんなでキャンプファイヤーを囲むの?」
「うん。火は、使い方によってはとても危険なものだ。だけど人々の心を、ひとつにまとめる力があるんだよ」
「そんな深い意味があったんだ………」
「それでは次に――牛乳を入れます」
七五三くんが石から立ち上がり、フタを開け、鍋に牛乳を入れる。
彼のとなりに並び、私は鍋の中を見つめてみた。
七五三くんがオタマでゆっくりとかき混ぜると、少しずつとろみがついてくる。
め、めちゃくちゃ良い匂いだ……。
ヤ、ヤバいよ、これ……。
私の彼氏、自分ちの庭で、なぜかコーンポタージュを作っちゃったよ……。
少量の塩を入れ、七五三くんが味をととのえる。
私たちの祝祭における最高の料理が、あっという間に完成した。
𖧧
私たちは、庭の石に座って、できあがったばかりのコーンポタージュを食べる。
な、何でしょうか、これ……。
すごく……味が……深いです……。
たしかにこんなの、今まで食べたことがない感じ……。
お店とかでは、ちょっと食べれないレベルの逸品……。
「どう? お味は?」
「う、うん……すごく……すごく美味しい……」
「良かった」
私たちは、スプーンでコーンポタージュをすくい続ける。
コーンポタージュを食べながら、私は、ふと、七五三くんに聞いてみる。
夏休みの間中、ずっと心の中で思っていたことだ。
「ねぇ、七五三くん」
「ん?」
「私、ずっとあなたに聞いてみたかったことがあるんだけど?」
「うん。何?」
「どうして七五三くんは――私と付き合ってくれたの?」
「どうしてって……それはキミが、とても素敵な女の子だからだよ」
「素敵……私、素敵なの?」
「素敵だよ。ビックリするくらい美しい人だ」
「私より可愛い子なんて、めちゃくちゃたくさんいるんじゃない?」
「そうかな? キミの外見は、とても素敵だ。でもキミの場合、内面もとても美しい。二つが揃ってる女の人なんて、めったにいないよ」
「私、時々思うんだよね……」
「何を? 何を思うの?」
「七五三くんはね、これからめちゃくちゃモテまくるよ。学年の女子は、みんな夏休み前から、七五三くんのカッコよさに気づいてる……」
「へぇ」
「だからきっと……私は、七五三くんにそのうちフラレちゃうんだ」
「それは……ありえないな」
「な、なんで? どうしてそんな風に言い切れるの?」
「ボクがキミのこと、大好きだからだよ」
「大好き、なの?」
「うん。大好き。それに大好きじゃなきゃ、中一の夏の終わりに、キミにこの特別なコーンポタージュをもてなしたりはしない」
「七五三くんは、不思議な人だね……」
「そう? ボクから見たら、キミの方がかなり不思議な人だよ」
「私? 私が不思議なの?」
「不思議だよ。キミはボクにとって、とてもとても不思議な人だ」
私たちがコーンポタージュを食べ終えると、目の前のキャンプファイヤーの炎が静かに消えていった。
やっぱ、これ、自動。
たぶん火の精霊が、ここから立ち去ったんだと思う。
ユラユラと空に舞い上がっていくキャンプファイヤーの煙を見上げながら、私は思う。
こういうの、私はまた食べれるんだろうか?
たぶんだけど、私と七五三くんがいっしょにいる限り、彼は食べさせてくれるような気がする。
そしてそのようにして――私たちの中一・夏の祝祭は終わった。
𖧧
「それじゃあ、気をつけて帰ってね」
外が薄暗くなりはじめた頃、私と七五三くんは橋のそばにいた。
いつものように、彼が私を見送ってくれる。
「うん。今日はごちそうさま。すごくおいしかったよ。七五三くんのコーンポタージュ」
「どういたしまして。ボクも葉月さんと祝祭を行えて、すごくうれしかった」
「ねぇ、七五三くん」
「ん?」
「もしかしてとは思うんだけど……これから、秋の終わりの祝祭とか、冬の終わりの祝祭とか、春の終わりの祝祭とか、そういうのがあったりする?」
「すごいね、キミは。もちろんあるよ」
「そういうの、また私といっしょにやってくれる?」
「もちろん」
「どうして?」
「どうしてって……キミが、ボクの彼女だから?」
「私が、七五三くんの彼女だから……」
「あれ? なんかボク、ヘンなこと言った?」
「ううん。あなたはいつもヘンだよ」
自転車に乗って、私は彼を振り返る。
「私はね、これからもずっとね、七五三くんと色んな祝祭をしたいよ。あなた、私の彼氏だから」
私の言葉に、七五三くんは薄っすらとほほ笑む。
私たちは、笑顔でうなづき合った。
「それじゃあ、帰るね。また明日、学校で!」
「うん。また明日、学校で! 気をつけて帰ってね!」
私は、自転車で走り出す。
少し走って振り返ると、七五三くんは私に向かって手を振っていた。
私も、彼に手を振り返す。
中学に入って――私には彼氏ができた。
彼は、とてもヘンな人。
めちゃくちゃ、アレな人。
つまり、アレカレ!
でも――私は彼のことが大好き。
私たちは、フツーのカップルみたいな日々は過ごせない。
だけどフツーのカップルじゃ過ごせない日々を、私たちは送ってる。
七五三くんが、私の彼氏になってくれて良かったな……。
まもなく夏が終わり、これから秋になっていく。
秋になったら、また彼との不思議な日々が始まるのかな?
私――それがホントに楽しみで、仕方がないよ♪
