アレカレ!

 私、葉月(はづき)しずく。
 中一。
 (うぐいす)(みさき)中学に入学してから一ヶ月――私には、気になってる人がいる。

 その人は――となりの席の、七五三(なごみ) (れん)くん。
 彼って、マジで超イケメン。

 クッキリとした二重の目。
 めちゃくちゃ長いまつ毛。
 スッと通った鼻すじ。
 大きくも小さくもない、いつも静かに結ばれたくちびる。

 身長は、フツー。
 きちんとカットされた、風に揺れるサラサラヘアー。
 男子の、いわゆる可愛い系?

 そう。
 私、最近気づいたんだ。

 七五三くんって、あんま目立たないけど――よく見たら、めちゃくちゃ美少年。
 カンペキって言っていいくらい、女子にモテる要素・テンコ盛り。

 でも七五三くんは、わりと地味。
 その理由は、シンプルに、彼が物静かな人だから。

 私、いつも彼のことばっか見てる。
 彼を見て、なんでだかわかんないけど、薄っすらほほ笑んでいたりする。

 こんな私、自分から見ても、ちょっとキモい。
 でも、彼を見るのが止められない。

 だからたぶん、これは恋。
 私、彼のことが好きなんだと思う。

       𖧧

「でも……七五三くんって、一体どんな人なのかな?」

 ある日の放課後。
 一人で校門から出た私は、ポツリとそうつぶやいた。

 教室での七五三くんは、私のとなりの席。
 でもとなりの席ってだけで、私、彼のこと、何も知らない。

 知ってるのは、彼が結構レアな苗字ってことくらい?
 だから私、まだ彼のルックスしか好きになってない。

「七五三くんのこと、もっと知りたいな……」

 そう思いながら前を見た瞬間――私は、人生サイコーのチャンスを手に入れてた!
 少し前を歩く、七五三くんの姿を発見!

「マ、マジか……」

 私、大キンチョー。
 とんでもなくビビりながら、彼の後ろを歩く。

 七五三くんの後ろ姿が、今、すぐそこに――。

 ヤ、ヤバいよ、この人……。
 歩き方、超カッコイイ……。
 後ろ姿までイケメンって、なんかすごくない?

 でも彼、まだ部活に入ってないのかな?
 ひょっとして、スポーツとか苦手な人?

 でも、まぁ、とにかく!
 七五三くんの歩き方は、すごくすごく素敵!

 腕の振り方、歩幅、他の男子は、あんなに美しくない!
 スタスタと、彼はまっすぐに歩いていく。

 いきなり――左に曲がった!

 そっか。
 七五三くんち、私んちと逆の方向なんだ。

 そして私は――思わず左に曲がってしまう。
 引き続き、彼のあとを追った。

 だって彼の後ろ姿、信じられないくらいカッコイイんだもん。
 もう少し、見ていたい。
 でも、そこで私は、ハッと気づく。

「も、もしかして……これって私、まさかのストーカー?」

 ね、ねぇ、私……それはダメだよ。
 絶対。
 マジで、それ犯罪だ。

 そう思ったけど――歩きながら、私はブルブルと首を左右に振った。

 い、いや、違う!
 こ、これは違うよ!

 私、今日は学校が早く終わったから、ちょっと遠回りして帰ろうと思っただけ!
 ちょっと散歩するだけ!
 ストーカーとか、絶対そういうんじゃないし!
 そんなことを考えている間に、七五三くんは山の方に向かっていく。

「七五三くんちって、山側なんだ……」

 その時、いきなり彼が、ピタリとその場に立ち止まった。

「え? な、何?」

 あわてて、私はすぐそばの木の後ろに隠れる。

 えっと、あの、これ、私、マジでヤバくない?
 これじゃ、リアルでストーカーじゃん!

 で、でも……これは偶然!
 私は、遠回りをしてるだけ!
 これだけは、絶対にそう!

 道の横を流れる、静かな川。
 その河原へと、七五三くんが降りていく。

「ど、どこに行くの?」

 私が見守っていると、彼は川辺に立ち止まり、その場にスッと腰を下ろした。

 休憩、でしょうか?
 ひょっとして、家までまだまだ遠い?

 河原のそばの木陰に移動し、私は彼を観察する。

 いや、ホント、そろそろマジでダメだよ、私……。
 もうここらへんでやめとこう?
 これ、本気で、ただのストーカー……。

 って、いやいやいや!
 違うって!
 これは、絶対に違う!
 私は、ただ遠回りをしてるだけ!

 でも……さすがにこれは、ちょっとヤバいな……。
 良くないよ……。
 こういうの、マジで良くない……。

「帰ろ……」

 そうつぶやき、私は元の道に引き返そうとする。
 すると、視界の片隅に――川面に反射するキラキラとしたオレンジ色が映った。
 おだやかな夕陽に包まれる、河原に座った七五三くん。

「カ、カッコイイ……」

 私は、やっぱり木の後ろに戻っていく。

 ヤ、ヤバすぎだよ、七五三くん……。
 どうしてそんなに絵になるの?
 カッコ良すぎでしょ……。

 あぁ、七五三くん……あなたはホントに、なんて素敵なの?
 クラスの他の男子とは、全然違う!
 すっごく特別な感じ……。

 私が彼の姿にウットリしていると、河原の端っこから、一匹の猫が現れた。
 黒猫。
 その猫が、まるで当たり前のように七五三くんのとなりに座る。

「七五三くんって、やっぱ猫にも好かれるんだぁ……」

 私が「うん、うん」とうなづいていると、黒猫が静かに七五三くんを見上げる。

「ニャア」

 その子が、鳴いた。
 すると彼が、フツーにそちらに顔を向ける。

「やぁ、ひさしぶり。その後、調子はどう?」

 え……。
 七五三くん、黒猫に話しかけてます……。
 うわぁ……彼、こんな子どもっぽいところもあるんだ……。

 うん。
 なんか、ますます可愛い……。

「ニャア、ニャア」

「へぇ、そうなんだ。相変わらず、キミも大変だね。でも……それはそうだよ。そうした方がいいと、ボクも思う」

 ……は、はい?
 えっと、あの、七五三くん?
 今、猫と会話しました?
 ウ、ウソでしょ?

 息を飲み、私はそんな彼らを見つめる。

「ニャア」

 もう一度、黒猫が七五三くんに鳴いた。
 すると彼は、ものすごくやさしい顔で、猫の頭を撫ではじめる。

「うん。そうだね。でもキミは、これからも生きていかなきゃならない。ツラいことがあっても、前を向いて行かなきゃだ」

「ニャア……」

 えっと、あの……すいません。
 私、もう色々とワケわかんないんですけど?
 七五三くん、もしかして、猫に悩みを相談されてます?
 って言うか、猫との会話、マジで成立してる?

「ニャア」

「その件については了解だ。それじゃあ、また来るよ。ボクはキミのこと、いつだって気にしてる。キミは一人じゃない。それだけは忘れないで」

「ニャア」

「ふふふ。それでこそ、キミだ。でも、くれぐれも車には気をつけて。急に飛び出したりしちゃダメだからね」

 座っている七五三くんの足に、黒猫が体をすり寄せていく。
 黒猫は、そのまま河原から立ち去っていった。

 黒猫がいなくなると、夕陽のオレンジに染まった七五三くんも、その場から立ち上がる。
 河原から道に上がり、学校の方に戻りはじめた。

「わ、私は、今……一体、何を目撃したんでしょうか?」

 ボーゼンと、私はつぶやく。

 も、もしかして、七五三くん――あの黒猫とマジでお友だち?
 この河原まで、わざわざ会いに来た?

 な、謎が謎を呼びすぎでしょ、七五三くん!
 あなた、一体、何者?

 どうしたらいいのかわかんない私は、美しく歩いていく彼の背中を見送る。
 その後ろ姿は、やっぱりめちゃくちゃ絵になっていた。

 す、素敵だ……。
 素敵すぎるよ、七五三くん……。

       𖧧

 中学生になって一ヶ月――私は、一人の男子がめちゃくちゃ気になっている。

 彼は、ちょっとヘンな人。
 黒猫のお友だちがいる人。

 翌日の一時間目は、英語の授業だった。
 でもどちらかと言うと、私は猫語を勉強したい。
 そっちの方が、なんだか私の人生がめちゃくちゃ楽しくなりそうだから。

 先生の話を聞きながら、私はさりげなくとなりの席の七五三くんを見る。
 七五三くんの横顔、やっぱ超イケメン。

 私、七五三くんのことをもっと知りたい。

 まだ一度も話したことないけど、彼のこと、もっともっと知りたい。
 彼って、ゼッタイ、他の誰とも違う。

 これって――やっぱ恋だよ!
 しかも、かなりマジなやつ!
 って言うか、いつかきっとLOVEになるやつ!

 私の初恋のお相手は、なんだかめちゃくちゃヘンな人。
 猫と話せる、すごくすっごくアレな人。

 七五三くん。

 私、あなたのこと、なんだか本気で好きになってきました。