次の休日。また碧に強引に約束を取り付けられて、駅へと向かう。
前に海に行った時、堂々と遅刻してきた碧のことを思い出すと、ため息が溢れた。
まだまだ暑い日々が続く毎日。こんな中待たされたら、熱中症になる…。そういうこともよく考えてほしい。
でも、前回で学んだのかもしれない。
待ち合わせ場所の改札口に、だるそうに立っている碧がいた。
「千瀬」
「おっ、おはよう」
碧に名前を呼ばれたのは初めてで、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。
「今日は早めに来たんだね?」
「そう」
今日は滝を見に行く約束だ。また電車を乗り継いで、駅からも歩くと見える、綺麗な滝。
ここら辺で一番綺麗だと言われている滝だ。
もう一度出掛けると言ったら、また両親はいい顔をしなかったけど、行ってらっしゃいと見送ってくれた。意味のないところで両親はたまに過保護だ。
電車に揺られながら、不意に碧が話し出した。
「2人の男女の話をしてもいい?」
「え、いいけど急になんで?」
「こないだ知ったばかりで、なんか誰かに言いたくなった」
「……そっか、別にいいよ」
ずっとぼうっとしているだけでも暇だし、碧の話を聞いてみようかなと思った。
そうして、碧はその人たちの実話を話し始めた。
2人は恋人で、凄く仲の良い幼馴染だった。
しかしある日、彼が、彼女に何も言わなかったものの、大きな病に侵されていると判明した。
彼女は泣きながら謝った。気付けなくてごめんと。
彼女は看病しようとしたが、伝染したくないし、きっと君なら付きっきりで看病する。体調を崩すかもしれないから、僕のことは気にしないでいてと言って彼は拒んだ。
そうして、彼は病死したのだ。
医者に看病していれば助かったかもしれないと言われた彼女は、後悔に襲われた。
自分が、彼が言った言葉を無視して看病していれば、彼は助かったかもしれない。
彼女は、最期まで自分のことを心配しながら死んでいった彼には、謝罪の気持ちしか湧いてこなかったのだ。
そんな、話だった。
「……そっか……、私は彼女の気持ちよくわかるなぁ……。自分のことを心配してくれたから彼が死んだ、なんて……凄く悲しいし、申し訳ないよね」
もちろん、大切な彼女を守りたかった彼の気持ちも、痛いくらいによくわかる。でもそれ以上に、彼女の辛い思いを鮮明に感じてしまって、胸が痛くなった。
「大切な人には、自分を守って死んでいくんじゃなくて、辛いことも一緒に分かち合ってほしいなぁ……」
独り言のように呟いた言葉は、碧の耳には入っただろう。
けれど、彼はその言葉を聞かなかったかのように、何も言わないでいた。



