大量の人間たちの、狂ったようにただただ先生に質問をする声と、それを止める声。先生に物申したい人々が研究所に押し入ってきたのだと血の気が引いた。
思わず碧にもらったエメラルドのペンダントを必死に握り込む。
——バンッ
「石田研究者‼︎」
大きな音を立てて扉が開いた。
先生は私を守るように前に立った。
「その女子は今回助けられたAIですか⁉︎」
「Stepは1人消えましたか⁉︎」
「その奥の機械はなんですか⁉︎」
あちこちで質問が聞こえてきた。必死に答えを貰おうとする記者、近隣の人々の声に頭が痛くなってくる。
「皆さん、落ち着いてください」
先生の澄んだ声にみんな黙り込んだ。
「今回、政府の指示により1人Stepを壊してしまいました。家族のような存在を、本人の意思とはいえなくすのは心が痛みました。……そして、この子が今回壊したStepが守った子です」
みんながの視線が私に向けられて、少し怖気ついてしまった。でも耐える。
碧は、政府に自分を壊すことで私を助けたいという時、こんな視線にもきっと耐えたのだろうから……。
「そしてこの機械は、人の記憶と、その時の思いを記録することができるものです。今この機械には、この子の記憶が記録されています。壊されたStepに会った時から壊された時の記憶までがあります。この機械に入れば、記憶を見ることができます。ここに、AIの切実な思いが入っています。誰か見たい人、いますか?」
シーンと静まり返っている室内の中で、1人だけ手を挙げた者がいた。
「はい。AIは、仲間が死に、閉じ込められている現状に対してどのように考えているのか知りたいです」
それを始めに、「私も‼︎」と手を挙げる人が続出した。
先程私が入っていたスペースに、手を挙げた人が入っていく。
知らない人に記憶を見られるのとか、恥ずかしいし嫌だけど、でもこれも碧との約束のためなんだ。
そして、私の記憶を見た人たちが、徐々に目を見開き始めた。
「私達は……一つの存在に対して、なんていうことをしたんだ……っ」
どうやら私の記憶を、映画を見た時のように共感してくれているようだ。私が……碧が伝えたかった、AIも人間と同じようにたった一つの存在だということを理解してくれたのかもしれない。
「どうしました」
ざわざわと騒がしい室内の中に、鋭い声が響く。
次の瞬間、あたりはまた静まり返った。
そこにいたのは、テレビでしか見たことのないような政府の重要人物だった。
「先生、この機械は?」
「この機械は、この少女の記憶を記録しているものです。ぜひ見ていってください」
先生がそう言って私を一瞥したので、私はゆっくり背筋を伸ばす。
この人が、碧を殺そうと決めた1人なのだろう。
きっとこの人には、一瞬も隙を見せてはいけない。
「君、今日壊したStepが命を賭けてでも守ろうとしていたAIか?」
「はい、そうです。私は、その今日、壊されたStepとの大切な時間を記録させていただきました。ぜひ、この記憶を見て、私が感じた感情を一緒に感じていただけると嬉しいです」
瞳をまっすぐに見据えてそう答えると、その人は私を嘲笑いながらこくりと頷いた。
「AIには感情などないだろうが、そこまで言うなら見ていこう」
「では、こちらに……」
先生に誘導されている間も、私はまっすぐその人を見ていた。
この人は、わかっていない。AIのことを。
そして、AIを見下しているのだ。自分が使う側なのだから、何をしてもいいと思っている。
そんなことは決してない。私だっていろんなことを感じている。



