もうどうしようもないのだろうか。
私の言葉では、たった1人の言葉では、この世界の運命も、碧の気持ちさえも、変えることができない。
「もし俺が消えても、千瀬には頑張ってほしい」
「何を……?」
「AIと人間を、昔のように平等にして欲しい」
え……。
「平等に……?どうやってやるの…….?」
「それは千瀬に任せる」
「えー……」
難しそう……。
「もしそれができたら……俺を救うことができたと思って。俺だけじゃない、他のAIたちも救うことができるんだ」
「できないよ……碧がいなきゃ……」
「できる。千瀬ならできるはずだ」
いやだ……。
当たり前のように自分がいなくなった世界の話をする碧が、嫌だ。
「そんなふうに泣いてたら、後から話せる時に笑って話せば良かったって後悔するよ。もう俺が消えるのは変えられないんだ」
「でも……っ」
子供みたいに、まだ希望を捨てきれない私に、碧がきっぱりと言い切った。
「俺はっ、世界で一番、千瀬が大切だ‼︎」
碧のその言葉を聞いて、一瞬息が止まる。
「大切な人を守ることくらい、許してくれないか?」
そんなふうに言われたら……。
大切な人を守りたいなんて、誰だって思うだろう。
涙を拭って、精一杯の笑顔を碧に向けた。
「……うん。しょうがないから、許す」
「しょうがないから、は余計だけどね?」
碧も一緒になって笑ってくれた。
「清水碧くーん」
「あ、先生……」
ドアが開いて、石田先生が姿を現した。
「そろそろ検査の時間だよ」
「あ、もうそんな時間……」
碧が腕時計で時間を確認して、申し訳なさそうに私に向き直った。
「ごめん、今日はもう検査しなきゃいけないんだ。また明日に来てもらっても……」
「もちろん、いいよ。でも、……壊れる、のが明日じゃなかったっけ…?」
「うん。朝の8時半から“壊す”検査が始まってもう会えなくて、8時からしかこの研究所に入れないらしいから……、長くても一時間しか一緒に居れないけど……、いい?」
「当たり前じゃん。一時間でも一緒に居れるのが嬉しいよ」
「その心意気が大事。じゃ」
手を振って、碧は扉の向こうへと消えていった。
もう明日には永遠に会えなくなるなんて、到底信じられなかった。



