一度碧が言っていた、「私はいい」という言葉の真意は、「君はAIだからいい」ということなのかもしれない。
「千瀬ちゃん……」
——ガラッ
先生が何か言いかけたところで、木製の扉が開いて、誰かが姿を現した。
「千瀬……?」
「碧……」
碧だった。
先生は慌てて「お邪魔そうだから行くねー」とそそくさと建物の奥へと入って行った。
「碧……、なんで勝手に消えようとするの?」
直球で聞いたその質問に対して、碧は黙り込んだ。
「………千瀬には、自由でいてほしかったんだ」
暫く無言のまま見つめあった後、碧がぽつぽつと話し出した。
「AIだからって、自由を奪われて欲しくなかった。ずっと、いろんな人と関わって、笑っていて欲しい。小さい部屋に、永遠に閉じ込められて自由を奪われるなんて、そんなの許せなかったんだ……」
「……じゃあ、こっちもだよ。私、碧が消えるのなんて、許せないよ。なんで……っ、碧が消えなきゃいけないの……?なんで、この世界は私から全てを奪おうとするの……?」
俯いた後に、私は勢いよく顔を上げた。
「ねえ、碧。私は碧がいない世界なんて生きている意味がないって思うよ。もしいなくなるなら、永遠に閉じ込められている方がいい……」
「そんなの、俺が許さない!」
急に碧が声を荒げたから、驚いて言葉が出なくなった。
「千瀬は分かってない。千瀬が俺に対して自由に生きていてほしいと思うように、俺だって千瀬にそう思っているんだ。俺は千瀬と過ごしてきたあの時間で、千瀬の素直さと明るさに救われてきたんだ。今まで救ってきてくれた千瀬を、今度は俺が救いたい……」
必死の言葉に、私は息が詰まった。
そんなふうに、思っていてくれていたのか。
私が碧に対して、今まで沢山救われたと思っていたと同様に、碧も私に救われたと思っていたのだ。
「私は、そんなふうに言ってもらえる人間じゃない。碧の方が、この世界に必要な存在だよ……」
泣きながら懇願しても、やっぱり碧の決意の瞳を揺るがすことはできない。
酷いほど残酷なこの世界は、私と碧がずっと一緒にいることを許してくれない。
私から全てを奪おうとしている。
「私、言ったよね。大切な人には、自分を守って死んでいくんじゃなくて、辛いことも分かち合ってほしいって。そんなふうに碧を救った私が言ってるのに、その願いは叶えてくれないの?」
「その願いだけは叶えてやれない」
そう言った後に、碧がちょっと笑った。
「俺は、満足してる。だって、千瀬を守れたから」
「碧……」
こんなのってないよ。私だって碧を守りたかった。
「もう俺は散々千瀬に救われてきた。俺が消えても、千瀬の思い出の中でずっと生きてるよ」
止まらないほど溢れた涙を碧が拭ってくれた。
でもすぐにまた溢れてきてしまった。
「千瀬」
澄んだ声で名前を呼ばれた。
「まだ消えるのは今日じゃない。明日だ。そこまで泣くことじゃない」
「泣くことだよ……」



