「そ、そうだったんだ…」
「水瀬はいい」
…え?
それって、よく恋愛小説である、君は特別だ。君だけは平気だよ、みたいな感じ?
でも清水さんの雰囲気から私に好意があるような感じではなかったため、「そっか」とだけ返しておく。
美術室のドアを開けると、1人の男子が私たちに気付いてぱあっと笑顔を咲かせた。
「いらっしゃい!きてくれたんだね、ありがとう!」
まるで、お店の店員さんのような台詞と、変わらないほっとする笑顔に、私も気付いたら口角が上がっていた。
「おはよう」
彼は海野陽人。太陽のような朗らかな笑顔を見ると、美術部に来たんだ、と思って気が抜ける。教室では、私がいると張り詰めた、緊張した空気になっていて、いつ嫌がらせされるかびくびくしているので、ここが唯一安らげる空間。
「そうそう、文化祭で展示する絵は、風景にしようと思ってるんだ。描きたい風景、見つけてきてね」
「りょ、了解です…」
「あと、文化祭では、自分のクラスの当番をやってくれてて構わないよ。展示してるのをお客さんが見るだけだしさ」
「は、はい…」
あれ、返事してるのが私だけだ。ちらりと隣を見ると、清水さんはスマホを弄っている。すごく他人事な感じがするな…。
彼は絵が上手い。一度、彼の絵を見た時、繊細な描写に目を奪われた。
部長の絵はダイナミックで、自由。な感じがした。そして彼は毎回、ほっこりするような、絵を見ただけで温かさが伝わるような色選びをしている。まるで彼自身のように。
「じゃあ、今日はここまでで。描きたい風景、見つけてきてねー」
「えっ…ぶ、部長…」
私が引き留めた声は聞こえたんだろうけど、無視して部室を出ていってしまった部長。もしかしたら、描きたい風景を探しに行っていたのだろうか。にしても強引というか、ちょっと軽い。
…まあいいや。私も、この景色を描きたい、と思えるものを探しに行こうかな。
鞄を持って、たちあがった。
「待って」
…のに、先程聞いたばかりの声が私を引き留めた。部長のように無視する訳もいかず、振り向く。
「な、何?」
「…水瀬は、何描くの」
その声で私の苗字を呼ばれるのがなんだかくすぐったい。
「えっと、まだ決めてないよ。清水さんは…?」
清水さんはスマホをポケットに入れて立ち上がった。よく見ると、私より少し背が高い。私も結構背が高い法だと自負していたので、少しショックを受けてしまった。



