「どっか知らないところなんて行かないで……っ。ずっと、私と……一緒にいて……っ」
ずっといてほしい。そんなことなんて、人だって思うでしょう?
なのに、AIにはそうする権利がないなんて、理不尽だ。
AIだって、ずっとそばにいてほしい、大切だって思うのに……。
「ねえ碧、今何処にいるの……?」
ほとんど聞こえないような小さい声が出た。
「会いたいよ……、私、碧に会いたいっ……。私を置いていくなんて……、そんなの許さないからっ……」
今の私の、思いをぶつける。
ああ、なんて言ったら、碧にこの思いが伝わるんだろうか。
「何処にいるのか、教えて……」
きっと会わなきゃこの思いは伝わらない。そう思って、電話を切った。
留守電、聞いてくれるといいけど……。
ほとんど放心状態のまま5分ほど経った時、通知音がスマホから鳴った。
——ピロン
「きたっ……」
ほとんど食いつくように今きたメッセージを見た。
碧からだっ!
碧から、位置情報が送られてきた……‼︎
迷わずそのサイトを開く。
「ここって……」
碧が言っていた、私達を作った人……石田光輝さんの研究所……?
「石田光輝研究所」とあるから、間違いないはずだ。
場所も行き方もよく確認せずにスマホを放り出して家から飛び出した。
私の今までの人生で、一番早く走って行く。
全速力で走っていくと、小さい小石に躓いてしまった。
「いった……」
確認すると、コンクリートで足から血が出てしまっている。
でも、こんなのでへこたれている場合ではない。
こうしている間にも、碧が政府の人に呼ばれて席を外したりしているかもしれないし…、何よりも、一刻も早く碧に会いたかった。
すぐに立ち上がってまた走り出す。
怪我した足が痛んでも、そんなのも気にせずに走り続けていたら、だんだん感じなくなってきた。
ここを右に曲がって、そこの交差点を……。
そんなふうに頭の中で考えていたら、ぎくりとした。
どうして私……石田光輝研究所に行った事なんてなかったのに、道がわかるの?
来たことがあるってこと?
あ……。
『AIは、今は忘れていても、思い出そうとすれば、どんな記憶でも思い出そうとすることができる』
そうだ。私は……っ。
私はとにかく願った。そして記憶の海を探る。
私は、石田光輝研究所に行ったことがある?会ったことがある?
その途端、私の脳裏に、記憶にない思い出が浮き上がってきた。
小さい頃の私は、両親と手を繋いで、この道を歩いている。
『ねえお母さん、私、今から何処いくの?』
幼い声で問いかけると、笑顔が返ってきた。
『病気について研究している人のところよ。千瀬が元気かどうか検査してもらおうね』
『うん』
そうだ、私は……小さい頃に、研究所に行ったことがあるのだ。最近はきていなかったけれど……。
きっと……両親は病気について研究していると言っていたけれど、きっとこの検査は、AIとして不具合がないか検査していたのだろう。
じゃなきゃ、検査の時に麻酔とか使わないはずだ。
検査するよと言われて意識が飛んで、次の瞬間には終わったと言われたのを覚えている。
やっぱり、碧が言ったことは嘘じゃなかったんだ。
確か石田先生は、優しく穏やかな雰囲気だった気がする。
そして、私は行ったことがあるから、道を覚えているんだ。
思い出に浸っていたら、いつの間にか研究所が見えていた。
「待ってて……」
気付いたら声が漏れていた。
「碧のこと、助け出すから……」
今まで私のことを助けてくれた碧。
今度は私が、助けに行くよ。
その檻から、君を助け出す。
それで、君は私のことなんて気にせずに、これからの人生を、小さな部屋の中で……私と同じように暮らそう。
私ももちろん嫌だけど、君がこの世界から消えていくことの方が嫌だから。



