君への想いは、愛だった



人間として最低なのは、わかっている。でも、部長の行動全てがプログラミングされていたものだと知ると、恐怖が浮かんできてしまった。
プログラミングされていても、あんなに人間らしく笑えるのか。話せるのか。
今まで、私は部長に向けられる笑顔が、温かさが、学校で無視されてきた私が学校で感じれる唯一の温かな感情だった。その感情に触れるたび、安堵していた自分がいた。ここが私の居場所だと確信していた。
でも、私に向けられていた温かい感情は、偽物だったのか。AIだったとしても偽物ではないのに、でもやっぱり考えてしまう。
AIと仲良くしていた、ということは、周りから「騙されているのではないか」と憐れみの眼差しを向けられる可能性もあるわけだ。あの子はAIだと知らなかったのか?プログラムされた感情を向けられても気付けないとは、あの子も心からの感情を向けていないのか。そんなふうに言われるのではないか。
バッと耳を覆った。幻聴が聞こえた。今日は両親が出掛けており、1人だ。なはずなのに、他人の声が聞こえる。憐れみ、軽蔑の感情がこもった声が、覆った耳からもするりと入ってくる。
荒い呼吸を繰り返しても、それは変わらなかった。

ハッとした。部長と仲が良かったのは、私だけではない。私より仲の良い人が、いた。きっと彼は、部長のことを心からの親友だと思っていた。きっとAIであることも知っていただろう。そんな親友、いや心友ともう二度と会えなくなった彼は、きっと悲しんでいるはずだ。家族としか面会できないのだから。
スマホを手に取り、前教えてもらった連絡先にメッセージを送った。メッセージは頻繁には送り合っていなくて、納得いく写真が撮れてからは一回もメッセージを送っていなかった。
メッセージを送って、すぐに返信が来た。今日は休みだと言うのに、美術室で絵を描いているらしい。大きな行事もないのに珍しい、と思ったけれど、大切な心友と会えなくなった悲しみを絵を描いて紛らわしたいのだという考えに行き着いた。
そして私も、鞄を持って美術室へと向かった。



私が学校に着いた途端、雨が降り出した。雲行きが怪しいなと思ったけれど、やっぱり降ったか……。雲を睨みながら美術室にいる碧の元へと急ぐ。

美術室では、真っ白なキャンバスがイーゼルに乗っていた。描く気はあるのだろうけど、椅子に座って頭を抱えてぴくりとも動かない。

「だ、大丈夫……?」

恐る恐る顔色を伺うように問いかけた声も、きっと碧には届いていない。
隣の椅子に座っても、碧はぴくりとも動かなかった。

パレットには、一色だけ絵の具がのっていて、溶いた後があった。




その色は——灰色だった。



ドクンっと心臓が跳ねた。碧の悲しみと孤独感を表す一色だった。落ち込んだ感情を表す灰色が白いパレットにぽつんと寂しくのっているのを見て、私まで胸が痛んだ。

むくりと何も言わずに碧が顔を上げた。私が来たからなんかではなさそうだった。顔をちらりとみると血の気がなく悲しみしか浮かんでいなかった。その表情にぎくりとする。
私は、碧の悲しみを見誤っていたのかもしれない。

私がわかってあげられるほど、碧の悲しみは浅いものではなかった。
そして同様に、碧と部長の絆は私が思っているほど弱くなんてなかった。

きっと、自分のことのように相手のことを考えていたのだろう。

「碧は、知ってたの?部長が……、AIだったって、こと」

糸の切れた操り人形のように、こくりと碧が頷いた。力のない頷きだった。

「……知ってた。そんで、文化祭前に、知った。……今度、陽人が……、部屋にずっと閉じ込められたままになって……、もう二度と、会えなくなるって……」

絞り出された声は、聞いたことのないくらい弱々しく、また胸が切り裂かれたような痛みが走る。