冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


「紫乃様、失礼いたします。今日から紫乃様のお世話をさせていただきます、タミと申します」
「……タミさん。よろしくお願いします」

 優しい声音の女中が、そっと紫乃の手をすくい上げた。その温もりに、紫乃は少しだけ肩の力を抜いた。
 タミに導かれるまま屋敷の中へと足を踏み入れる。

 どこからともなく甘い花の香りとい草の香りが仄かに漂ってくる。
 紫乃には、壁の装飾や調度品はぼんやりとしか見えない。けれど、足裏に伝わる感触で、板張りと絨毯の違いははっきりとわかった。

(……不思議な造りの家。和と洋が溶け合っているのね)

 タミが部屋の扉を開けると、ふわりと優しい香りが鼻腔を擽った。

「こちらが紫乃様のお部屋でございます」

 紫乃はそっと部屋の中へ足を踏み入れた。視界は曖昧だけれど、柔らかな光と穏やかな空気が緊張している紫乃を包み込む。
壁際には花台があり、白磁の花器に花が飾られている。

(この香りは……)

「……鈴蘭?」

 紫乃が呟くと、タミは「はい」と言いながら、花台のそばまで歩みを導いた。

「今朝、庭で咲いていた鈴蘭を摘んでまいりました」

 紫乃は驚いたように目を見開いた。

(……お庭に咲いているのね。……私の大好きな花。時間のある時に行ってみたいわ)

 仄かな優しい香りに目元を綻ばせる。紫乃はそっと花に手を伸ばした。
 小さな鈴のような花弁が、指先に触れて可憐に揺れる。