冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


 勇心が家を留守にして、一カ月半が経ったある朝。目を覚ました紫乃は違和感を覚えた。
 レースのカーテン越しに差し込む柔らかな光が、いつもよりも鮮明に感じられる。
 まどろみの中で、天井を見上げると──。

(……あれ?)

 いつもなら、ぼんやりとしか見えないはずの天井の模様が、くっきりと浮かび上がっていた。
 寝台の横に置かれている花台の生け花も、扉の飾り彫りに至るまで手に取るように見える。
 紫乃は慌てて眼鏡に手を伸ばし、かけてみると、逆に視界が歪んでしまった。

(……え、どういうこと……?)

 南側の大きな窓を開け、庭に植えられてい木々を眺めてみる。
 さすがに遠景はまだ霞んでいるが、それでも以前よりはずっと輪郭がはっきりしていた。

「タミさん、……ちょっと、いいかしら」

 身支度を済ませた紫乃は、朝食の支度をしているタミに声をかけ、今の状態を話すと、タミは少し驚いたように目を見開き、やがて目に涙を浮かべた。

「実は……紫乃様の視力のこと、若旦那様が『これは栄養が問題かもしれない。目や身体に良いものを、できるだけ食べさせたら、視力が戻るだろう』と、私たちにおっしゃっていたのです」
「……彼が、そんなことを?」