冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


 その夜、紫乃は岩永家の当主である父親宛てに手紙をしたためた。
 商売の調子を尋ねる文面に紛れ込ませるように、『最近、戦や事故などで薬品の需要が増えておりませんか?』と、さりげなく筆を走らせる。

 数日後、父親から送られてきた手紙にはこう綴られていた。
【長崎の佐世保で、疫病が流行りだしたらしい。薬品の手配が追いつかず、現地で輸入品の調達をしている。しばらくは混乱が続くかもしれない】と書かれていた。
 そして、手紙の最後に、【夫婦仲は順調なんだろうな? 篁家及び、海軍の高官たちの機嫌を損なう行動は慎め。それだけは肝に据えておくように】そう記されていた。

 紫乃は手紙を読み終えると、そっと胸元に当てた。三宅医師が教えてくださったことは本当だった。そして、薬品が間に合わないほど、流行しているのだということも。

(お父様の目的が何かは、わかっているつもりだったけど、ここまではっきりと書かれていては……やはり胸が痛むわね)

 紫乃は毎日、奥の間にある神棚に手を合わせ、勇心の無事を祈った。
 食事も喉を通らず、夜もほとんど眠れず、日に日に衰弱していった。