冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


「少し、……よろしいでしょうか?」

 紫乃が頷くと、三宅は小さく息を吐いてから、重い口を開いた。

「篁先生ですが、……今、とある港に停泊中の艦内で発生した感染症の対応に当たっています。場所は、申し上げられないのですが……」
「っ……」

 紫乃の胸が、きつく締め付けられた。
 タミもまた、言葉にならない声をぐっと押し殺すように唇を噛みしめた。

「感染症……ですか」
「はい。軍に関することは当然伏せられていますし、我々軍医でも詳しくはわからなくて……。それに、外部に漏れれば、混乱を招きかねませんので……」

 三宅の目は真剣だった。
 紫乃は、喉の奥に何かが詰まったような感覚を覚えながらも、必死に笑顔を貼り付けた。

「教えてくださり、ありがとうございます。口外しませんので、ご安心ください」

 紫乃はタミに視線を向け、目配せすると、タミは一つ頷いた。
 三宅はそれを目にすると、再び軽く頭を下げて、「では、くれぐれも」とだけ言い残し、その場を後にした。

 紫乃は手元に視線を落とす。心の中では、嵐のような不安が渦巻いていたが、それを表に出すことはできなかった。

 紫乃とタミは、帰り道沿いにある神社へと足を向けた。
 夕暮れの空には、淡い茜が滲み、木々の葉が風に揺れてさやさやと音を立てている。その穏やかさが、返って紫乃の胸をざわつかせた。

(どうか、どうか……ご無事でいてくださいませ)