冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


 翌朝。
 結局一睡もできなかった紫乃は、少しやつれた表情で夫の居室を訪れた。

「……まだ、お戻りではないのね」

 昨日、寝台の上に畳んでおいた夜着が、そのままになっている。
 タミに尋ねると、たまにこうして連絡もなく、帰ってこない日もあるのだとか。

「申し訳ありません、紫乃様。軍のことは、私共にも……」

 執事に聞いても、返ってくるのは同じ言葉だった。
 軍関連のことは機密事項だから、例え家族であっても、知らされないという。
 執事が気まずそうに眉根を寄せる。

「わかりました。私、お庭に水撒きしてきます」

(私が暗い顔をしてたら、みんなが気を遣うわ。勇心様はお医者様だけど、海軍所属の医師なのだから、仕方ない……。わかってはいるのだけれど……)

 紫乃は胸の奥に重く沈むものを抱えながら、庭の片隅でしゃがみ込んだ。

(実家で暮らしていた時は、誰にも期待することなんてなかったのに……)

 篁家に嫁いできてからは、夫にも使用人にも親切にして貰っているうちに、いつしか心の拠り所を見つけていた。
 全ては、この結婚を申し出てくれた、勇心の優しさから始まったのだと、改めて思い知った。

(勇心様に……会いたい)

 たった一日会えないだけなのに、不安が静かに、心を蝕んでいく。