冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~

 
 爽やかな風がそよぐ、とある日の午後。
 紫乃はタミと共に、勇心の忘れ物を届けに軍病院を訪れていた。

 高価な眼鏡をかけているというのも目立つし、そもそも女性が眼鏡をかけていること自体、珍しい。だから、病院の関係者も患者である軍人たちも、紫乃を好奇な目で見てくるのだ。
 今までは視力が悪いこともあって、これらの視線に気づかなかったが、眼鏡をかけたことで視界良好の今、紫乃の心がわずかに軋む。
 視線を遮断するように紫乃の前に立ちはだかったタミは、「気に留める必要はございませんからね!」と言ってくれた。
 その時、廊下の奥から駆けてくる足音が、紫乃の耳に届く。

「助かった」

 挨拶もないまま、たった一言口にした勇心は、紫乃の手から封書を受け取り、慌ただしく診察室へと戻っていってしまった。
 呆気に取られてしまった紫乃は、ぽかんと口を開けたまま。
 そんな紫乃を気遣い、タミが「きっと、お忙しいのですよ……。お庭を散策でもして帰りましょう」と提案してくれた。

「……そうね」

 紫乃は気持ちを切り替え、タミと一緒に中庭へと出る。
 軍病院の庭には、一面の芝桜の絨毯が広がっていた。
 淡い桃色と白が混じり合い、まるで春の吐息が地面に降り積もったようだった。

「まあ……綺麗……」

 紫乃がそっとしゃがみこみ、指先で花びらに触れる。その隣で、タミも目を細めた。