勇心は紫乃の体を引き離し、思い出したように咄嗟に立ち上がった。そして、鞄の中から小箱を取り出す。
「合うといいんだが……」
「……?」
紫乃が首を傾げると、勇心はその小箱を開けた。
「眼鏡だ。西洋医師に頼んで、紫乃さんの視力に合わせて作ってもらった」
「えっ……」
紫乃は、思いがけない贈り物に目を見開いた。
(こんな高価なもの……実家では、誂えてもらえなかったのに……)
「かけてみろ」
「……はい」
紫乃は恐る恐る眼鏡を手に取り、そっと耳にかけた。
顔を上げた瞬間――。
「……っ!」
目の前に立つ夫の顔が、はっきりと見えた。いつもはぼやけていた輪郭が、今はくっきりと浮かび上がっている。
「俺の顔が見えるか?」
「……はいっ。はっきりと見えます」
「そうか」
勇心は目元を綻ばせた。
紫乃は、胸の奥に甘い疼きを感じた。
「こんな高価なものを……ありがとうございます」
「大したことない。気にするな」
紫乃の目に、涙が滲んだ。初めてはっきりと目で捉えた夫の顔は、優しく、男らしく――美しい男性だった。



