冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


「顔色が……悪いな。どこか、痛むところがあるか?」
「へ? あっ、……いえ」
「とりあえず、ここに座って」

 勇心は紫乃を寝台に座らせ、自らの鞄を開けて聴診器を取り出した。けれど、手元が少し震えている。

(……生真面目な娘だとわかっていたのに、楽しく過ごせるなら……と、無茶をさせすぎたかもしれない)

 紫乃の額に手を当て熱を確かめ、手首から脈を測り、不調の原因を探る。だが、どこにも異常は見当たらない。

「特に異常はないようだが……」

 勇心が小首を傾げながら視線を持ち上げると、紫乃は勇心の胸元にそっと顔を寄せた。その行動に、勇心の体がびくりと強張る。

(な、なんだ……?)

 紫乃は意を決して、深く息を吸い込む。香水の匂いはしない。白粉《おしろい》の香りもない。けれど、微かに煙草の匂いがした。

(煙草を吸う女性なのかしら……? お父様の愛用しているものとは少し違うけれど……)
(ま、まさか……これは……紫乃さんからの、夜の誘い……?)

 勇心の脳内に警報が鳴り響く。目の前には、夜着姿の紫乃。ふわりと甘い香りが鼻腔を擽り、襟元から覗く白い肌が視界にちらつく。

(だめだ、落ち着け……! 彼女は今、……具合が悪いんだ!)