「……わざわざ?」
「ええ。ここだけの話ですが……お部屋の鈴蘭も、紫乃様がお好きだという情報を、どこからか仕入れてこられて、庭師に移植を命じられたのですよ」
「えっ……!」
紫乃の胸が、じんわりと熱を帯びていく。
毎朝、部屋に飾られていた鈴蘭の花。あの優しい香りに、どれほど心を救われたことか。
「まだありますよ……ふふふっ」
「え、まだあるんですか!?」
タミは悪戯っぽく笑いながら、紫乃を居間へと誘った。昼下がりの陽射しが、障子越しに柔らかく差し込んでいる。
「実は……婚礼衣装も、若旦那様が仲の良い西洋医師にご相談なさって、一から考案されたそうです。唯一無二の婚礼衣装を、と」
「ッ……?!」
紫乃の胸が、どくんと跳ねた。
「白無垢でもなく、洋装でもない。和と洋が調和した、あの美しい衣装……。岩永家がご贔屓にしている呉服屋に問い合わせて、紫乃様の寸法や好みをお尋ねになったそうですよ。縫製師も、西洋医師の紹介で特別に手配されたとか」
(あの衣装が……私のために……)
紫乃は、婚礼の日に感じたあの仄かな香りと、肌に吸い付くような布の感触を思い出していた。あれは、ただの衣装ではなかった。夫の……、見えない想いが縫い込まれた、愛の証だったのだ。



