冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


「これには、抗炎症作用と保湿効果がある」
「……っ!」

(……あかぎれだらけの手が、ばれてしまったのね……)

「塗布後は包帯で圧迫固定を……いや、そこまでは必要ないか……。水仕事のあとには小まめに塗って……足りなければいつでも言ってくれていい。すぐに調合するから……。塗り方がわかるか? 貸してみろ、塗り方を教えてやる」

 たった今握らされた薬膏瓶が奪い取られてしまい、何やらブツブツと小さな声が紫乃に降り注ぐ。

「……ふふふっ」

 紫乃は、思わずふき出してしまった。

「……何かおかしかったか?」
「いえ……なんでもありません」

 真顔で聞き返す勇心の顔は、紫乃には朧気にしかわからないが、声音がいつもより柔らかい気がするのは、気のせいではなさそうだ。
 勇心は優しい手つきで、紫乃の手に軟膏を擦り込む。

(『不愛想』だと聞いていたけれど、とてもお優しいお方だわ。少し不器用なところはあるみたいだけれど……)
(なんて可愛らしい手なんだ……。この小さな手で、俺のために握り飯を作ってくれたのか……)

 軟膏を塗布し終えた勇心が顔を上げると、自然と視線が絡み合う。
 紫乃は何度目かの、間近で見る夫の顔をじっくりと眺めていると……。

「この距離なら、俺の顔が見えるか?」
「……はい。はっきりと、見えます」
「……そうか」

 小さく頷いた紫乃の頬にそっと触れた。

(紫乃さんと話す時は、この距離を保つように心がけよう)