紫乃は息を整え、真っすぐ前を見据えた。その瞬間、目の前の扉が、勢いよく開いた。
「っ……!!」
室内から漏れる灯りに照らされ、逆光の中に大きな影が浮かび上がる。思わずのけぞった紫乃を、勇心はとっさに抱き留めた。
「……ふふっ、そなたを支えるのも、慣れたものだな」
低く、優しい声音。頬にかかるあたたかな吐息。
紫乃は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
(柚子と……薄荷かしら……?)
勇心の体から仄かに香る匂いに、紫乃は思わずくんくんと鼻を鳴らす。
夜着の襟元に顔を近づけ、香りを堪能するように目いっぱい空気を吸い込む。
「勇心様から、爽やかな香りがいたします」
「っ……、薬湯の匂いだ。苦手か……?」
「いえ、とっても優しい香りです」
(勇心様は、薬湯に入られるのね。どんな効能があるのかしら……? 後でタミさんにでも尋ねてみましょ)
(急に動くから、何事かと思えば……。疲労回復用の薬湯の香りが気に入ったようだな。それにしても、無自覚なのか? 俺が夫だからいいものの、警戒心がなさすぎる)
勇心は紫乃の体をゆっくりと抱き起し、ゴホンと咳払いをした。
「それは、俺にか?」
「あ、はい。……申し訳ありません、一つ落としてしまいましたが……」



