冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~

 
 翌朝、身支度を終えた夫を玄関で送り出そうとしている紫乃。タミが勇心に軍医鞄を差し出した。
 勇心は一瞬紫乃に目をやり、タミの手から鞄を受け取る。

「今日はイチキュウサンマルだ」
「承知しました。お気をつけていってらっしゃいませ」
「……? いってらっしゃいませ」

 玄関の扉が閉まり、勇心の気配が消えた。
 紫乃は今のやり取りを振り返りながら、小声で呟く。

「いち……きゅう……さんまる……?」

 紫乃が小さく首を傾げると、タミは優しい声音で答えた。

「若旦那様のご帰宅の時刻ですよ。海軍では、時刻を“イチキュウサンマル”のように、数字で表すのです。一九三〇――つまり、夜の七時半という意味です」
「なるほど……!」

 紫乃は思わず目を丸くした。

(帰ってくる時間をきちんと伝えてくださるなんて、お優しい方なのね……)