勇心は安堵の息を吐きながら、竹刀を拾い上げた。
紫乃は無我夢中で自室に戻ったが、胸の奥で暴れ続ける鼓動が、まだ収まらない。
(な、なにをしているの、私……! 勇心様の素肌に触れてしまったわ……)
顔に熱がこもり、頬が火照って仕方がない。気を落ち着けようと、寝台脇に置かれた白磁の水差しへと手を伸ばしたが、指先が震えてうまく掴めなかった。
「あっ……!」
鈍い破裂音と共に、水音が部屋に響いた。
「紫乃様っ!?」
何事かと慌てた様子で駆け込んできたのは、女中のタミだった。
床に散った陶器の破片を集めようとしている紫乃の姿を見て、タミの目がまん丸になる。
「そのままで! 動かないで下さいっ! ……お怪我はございませんか?」
「だ、大丈夫です……ごめんなさい、手が滑ってしまって……」
紫乃は顔を伏せたまま、震える声で答えた。
頬は紅潮し、着物がはわずかに着崩れている。その様子に、タミは目を見開いた。
(これは……!)
タミはすぐさま寝台の敷布を確認すると、わずかに血痕があった。
(あの勇心様が……)
「……あの、紫乃様。新しいお水は、すぐに持って参りますので……どうぞ、今はお身体をお休めくださいませ」
「えっ、でも……」
「すぐに敷布も交換いたしますね。ひとまず、寝台に腰かけてお待ちくださいませ! さ、こちらへ」
タミはにこにこと微笑みながら、紫乃をそっと寝台へと導いた。その目元には、どこか嬉しそうな光が宿っている。
(……どうしたのかしら?)
紫乃は不思議に思いながら、寝台に腰かけた。
(そういえば、また手のあかぎれが切れているわ……。勇心様の服を汚してしまってないかしら……)
つい先ほどのことを思い出し、再び頬が赤らむ。
そんな紫乃を見据え、タミは心の底から安堵した。



