冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


 勇心は紫乃を軽々と抱き上げ、足先が地に着くようにゆっくりと下ろした。
 紫乃は、みだりに男性の裸を直視してはいけないと思いつつも、あまりにも見事な鍛え上げられた肉体に、目を奪われてしまう。
 勇心は紫乃の視線を感じて、自分の体に視線を落とす。
 逞しく盛り上がった肩の三角筋、脈打つような筋の浮いた上腕二頭筋。ほんの数秒前まで触れられていた大胸筋に、くっきりと割れた腹直筋。そして、腰骨へと流れるしなやかな外腹斜筋。

(幼い頃から毎日剣術の稽古をしているお陰で、男らしい肉体に仕上がっているとは思うが、……紫乃さんもやはり、男らしい体が好きなのだろうか?)

 まじまじと見つめられていて、勇心はたじろいでしまった。

(それにしても、軽かった。昨日の婚礼姿で華奢な体型だとはわかったが、職場で使う蒸留水(約四十㎏)より軽いんじゃないか?)

 勇心は今の出来事を思い返していた。

(顔が無性に熱いのは、体温調節中枢の一時的な誤作動……いや、違う。これは、交感神経の過活動による発汗と血流増加……つまり、紫乃さんを見たせいで……いや、見たからではなく……抱き留めたからか? あんなにも小柄で華奢なのに、とても柔らかく、甘い香りがした。それに、視線が合った。確かに、俺を見ていた。目が悪いと聞いていたから、視線が交わることはないと思っていたのに……)

 黒々とした大きな瞳が、真っすぐと自分を捉えていることに気づいていた。

(あの距離なら、俺の顔も、わかるのかもしれない。近距離での視認が可能ということは……)