冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


「……いえ、私の方こそ、お稽古の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんっ!」

 謝罪の言葉を口にした紫乃は恐る恐る目を開けると、額から汗を伝わせた勇心の顔が、ほんの数寸先にあった。
 初めて間近で見た夫の顔は、朝の光を受けて、淡く輪郭を浮かび上がらせている。
 切れ長の双眸が真っすぐに紫乃を射貫き、高く通った鼻梁が顔立ちに凛とした陰影を与えている。顎の線は骨ばっていて、頬の輪郭は無駄のない直線を描いている。
 薄く整った唇がわずかに開かれ、熱を帯びた吐息が頬を掠めた気がした。その精悍な顔つきには、鍛え上げられた男の強さが滲んでいるのに、なぜか目が離せないほどの色香がある。

(……こんなに男らしくて、美しい方だったのね。もう少し近くで……)

 紫乃の胸の奥が、ふるりと震える。気づけば、紫乃はそっと顔を近づけていた。
 唇が、触れそうなほどに。その刹那、指先に伝わる感触に気づく。
 紫乃の手が、勇心の胸に触れている。汗に濡れた素肌は熱を帯び、しなやかに張った胸の筋肉がわずかに震えた。その一瞬の動きに、紫乃の心臓が小さく跳ねた。

「っ……! も、申し訳ありませんっ!」

 紫乃は慌てて体勢を戻そうとするも、完全に彼の腕に抱き留められている状態では、どうにもできなかった。

「じっとしていろ」
「っっ……はい……」