冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


 勇気を振り絞って口を開いたその声は、かすかに震えていた。
 だが、返事はない。代わりに、ぎこちない気配が部屋に満ちていく。
 紫乃の曖昧な視界の中、背の高い影が近づいてくるのがわかる。その存在は威圧感があり、次第に空気が重くなっていくような気がした。

(『最恐軍医』と呼ばれる……お方)

 紫乃はぼやける視界の中で、必死に勇心の姿を捉えようと顔を持ち上げた。

 紫乃の目の前まで歩み寄った勇心が、すっと手を顔に近づけた、その刹那。紫乃はその気配に、急に怖くなってしまい、ぎゅっと瞼を閉じた。
 病気や怪我をしている人を治療している手だとわかってはいるけれど、全ての人を救えているわけではない。
 噂を信じているわけではないが、日々手術刀を手にしていると思うと、体が縮み上がってしまう。

 勇心は紫乃の姿を見て、思わず固まってしまった。目の前の可憐な少女が、夜着姿で……必死に受け入れようとしているのだ。
 白い襟元から覗くうなじが儚げで、細い肩がわずかに震えている。陶器のような白い肌に、ほんのりと色づく頬。桜色の小さな唇は艶めいていて、一瞬で勇心の視線を奪った。

(口づけを強請っている……のか?)