冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


 篁家の大広間は、静謐な空気に包まれていた。
 和の意匠を残した高い天井に、洋風の吊り灯が淡い光を落としている。白木の床には、深紅色の絨毯が真っすぐ敷かれ、奥の祭壇へと続いていた。

 タミに導かれてきた紫乃は、祭壇の前に立っていた。
 視界は霞んでいるが、柔らかな光の揺らぎと、静まり返った空気の張りつめ方で、“ここが婚礼の場なのだ”と理解できた。

 婚礼衣装の『舞華蓮(まいかれん)』は、振袖のように長い袖と洋装のようにふんわりと広がる裾が優美で、白地に淡い蓮色の刺繍が施されている。襟元は繊細なレース、足元は踵の高い洋靴。髪には生花と髪飾りがあしらわれ、仄かに甘い香りが漂う。

(……お母様、天国から私の姿が見えますか?)

 胸の奥が静かに熱を帯びた、次の瞬間。大広間の扉が勢いよく開き、室内がしんと静まり返る。

 紫乃の耳に、低く落ち着いた足音が届く。規律に鍛えられた歩調。迷いのない、まっすぐな響きが近づいてくる。
 その足音に、紫乃は自然と背筋を伸ばした。紫乃の正面に、背の高い影が立つ。

 視界はぼやけている。けれど、そこに“圧倒的な存在”があることだけは、はっきりとわかった。
 紫乃は、胸の奥がざわめいた。