「そういえば、『二人だけの挙式』だと聞いているのですが、ご家族の方は……?」
自分の家族は欠席でも構わないが、篁家から一人も参列しないことに違和感を抱いていたのだ。
「若旦那様はご嫡男ですが、『黄泉の手』と噂が立ってから、旦那様と少し距離を置かれるようになりまして……。この屋敷も元々は別邸だったのですよ」
「……そうでしたか」
(どこの家も少なからず家庭環境にいざこざは付きものよね。私だって長女だけど、使用人のように過ごして来たのだから……)
紫乃が小さく息を吐いた、その刹那、軍靴の音がわずかに紫乃の耳に届いた。
迷いのない歩調が、静かな屋敷の空気をまっすぐに貫いていく。
見えぬはずの彼の輪郭が、音だけでそっと浮かび上がるようであった。
紫乃の心が、ひとつ強く脈打った。
(“黄泉の手”と呼ばれる軍医様だわ。そして、私の夫となるお方……)
響く足音が、まだ見ぬ夫の気配を鮮やかに運んでくる。



