きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

「おいくら?」
「安いよ。7万4000ルーブル」

俺の勧めるネックレスを眺めていた婦人があら、と手を引っ込める。今日はマーケット街に店を出していた。

「結構するわね。小さい宝石なのに」
「それだけ希少なんですよ。ほら、こんなに輝いてるでしょう」

肩を抱き距離をグッと詰めると、俺を見る目が急に熱っぽくなった。
上質な布で仕立てられたドレスに、美しく染められたグレーヘア。唇には真っ赤なルージュがオーバー気味に引いてあり、若すぎるデザインの耳飾りをしている。明らかに上流層の人間だ。

「マダムの華奢な首元によーくお似合いですよ?」

すっ、と指で首筋をなぞってやるとわかりやすく頬が紅潮した。いくつになっても女は女であるらしい。

「そうね……頂くわ」


早々に店を閉めた後、夕方まであてもなく街を彷徨った。

『なーにが華奢な首元だ。どう見たってデブじゃねーか』
『ハンサムは得だねぇ。色目使えば女が買ってくれるんだから』
『そうそう。例えただのプラスチックでもな』

商売敵からの揶揄もいつもなら軽く受け流すのに、今日は無性に心に刺さる。

「馬鹿だよな。本当に」

苛立ちが募る。客にも、自分のやり方にも。
こんな事、今まで無かった。詐欺師としての自分に疑問を抱くなんて。

頭を空っぽにする為ひたすら歩いていると、そこかしこで紺色の修道服を着た女たちが固まっているのが見えた。

「……」

無意識に辺りを見回してしまう。
大勢のシスター達の中。一人だけワンピース姿の彼女を見つけるまで、さほど時間はかからなかった。