きみが春なら

「……ごめん」
アレクが呟く。

「いきなりこんな事して、ごめん。でも僕、本気なんだ。一目見た時から君の事……」
その時、彼の肩越しにワゴンに戻るジルの姿が見えた。無理矢理体を離しそちらへ走る。
後ろでアレクが何か言っていたけれど、雨音に紛れてよく聞こえなかった。

「ハル!びしょ濡れじゃねぇか」
ワゴンに飛び込んだ私を見てジルが目を丸くする。
「オーナーに許可取ってきたよ。今日はもう客も捕まらなさそうだし閉めていいってさ」
「……そう」
「ごめんな、片付け一人で任せて。って、どうした!?」
ジルの姿を見たら、安心して涙が溢れた。

「な、んでもな……」
「何でもない訳ねぇだろ!は、腹でも痛いのか?」

慌てふためくジル。笑いたいのに、嗚咽が止まらない。今さっき自分の身に起きた事が受けとめられなかった。

「だーっ!泣きやめ!誰だ、うちの看板娘泣かせた奴は?」

大きな手でわしゃわしゃ頭を撫でられる。ジルの不器用な優しさに、また涙が出てきてしまう。

胸が痛くて。
痛くて、痛くて。

もう記憶の中でしか聞けない声を
こんな風に思い出す度に辛くなるのは、嫌だった。

強くならなきゃ。ちゃんと。
強く、ならなきゃ。