きみが春なら

「なーんか降りそうだなぁ。こりゃ」

一緒に店番をしているジルの声に、野菜を切る手を止める。隣に立ちどんよりした曇り空を見上げた。
昼時の混み合う時間帯も過ぎ、夕方からの営業に向けて準備をしているところだ。

「夜までもつかしら」
「早いとこ売りきっちまおう。呼び込みでもしてくるか」

ジルが出て行き、私も仕込みを再開させた直後。ぴかっ、とワゴンの外が光った。

「わっ。」

一拍遅れてゴロゴロと雷鳴が届き、あっという間にすさまじい雨が降り出した。人々が足早に通りを駆けていく。

「ひゃー。すげえすげえ!」
「大丈夫?」
戻ったジルにタオルを手渡す。

「これじゃ今日はもう店仕舞いだな。オーナーに連絡してくるよ」
「じゃあ私は片付けをしておくね」
「あぁ。頼む」

ワゴンから外に出ると、1月の雨の冷たさに体が震えた。風も勢いを増すばかりで目をきちんと開けていられない。
ビニール袋を両手に抱え、反対通りにあるいつものゴミ捨て場に向かおうとした時。

「……危ないよ」

ふわっ、と何かで頭が覆われた。顔を上げると誰かがジャケットで雨を遮ってくれている。 

「このまま行こう。あそこだろ?」

聞き覚えの無い声に戸惑いつつ、促されるまま通りを渡った。

無事にゴミ捨てを終え、そのまま近くのアパートの軒下に避難した。